くじ引き民主主義 政治にイノヴェーションを起こす 吉田徹著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

くじ引き民主主義

『くじ引き民主主義』

著者
吉田徹 [著]
出版社
光文社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784334045722
発売日
2021/11/18
価格
858円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

くじ引き民主主義 政治にイノヴェーションを起こす 吉田徹著

[レビュアー] プチ鹿島(時事芸人)

◆究極の「利他」で劣化補う

 私たちは忙しい。仕事や生活がある。夕飯のメニューを決める「話し合い」ぐらいならできるが、もっと専門的な問題を決めるには時間も知識も足りない。だから代わりに議論してくれる人(代議士)を選ぶことにした。それが代表制(代議制)民主主義なのだろう。では代わりに選ばれた人達はちゃんと議論をしているのか、本当に私たちのために働いているのか。つまり政治不信である。

 だったら「くじ引き」で選びませんか? 本書はそう提案している。古代ギリシャだけではなく現在も各国でおこなわれ、研究対象としても「くじ引き民主主義」は無視できないという。

 素人にできるのかと不安になるが「エリート(選挙で選ばれた人)」は次の選挙のことで頭が一杯だ。自分や党のことしか考えていないような人もいる。社会保障や気候変動など将来大事な議題は選挙ではあまり扱われない。それなら私たちが時間をかけて話し合ったほうがよほど機能しそうだ。民主主義の形は決して一つではない。くじ引きを部分的に取り入れることで代表制民主主義の劣化を補い、ポテンシャルに期待すると説く。本書は民主主義への叱咤(しった)激励でもある。

 あと、「偶然」というキーワードにも目を留めた。くじ引きという偶然を取り入れることで、機会の平等さえも不均等に配分されている現状から平等を取り戻す。《偶然は人の思考や行動をむしろ解放する側面があるのだ》という。

 「偶然」に注目していたのは『思いがけず利他』(中島岳志・ミシマ社)もそうだった。中島氏は利他の本質に「思いがけなさ」があると考えている。“私”の存在にかかわる偶然や運に目を向けることで(謙虚になることで)、私たちは他者へと開かれ、共に支えあえる。自己と他者は「置き換え可能な存在」という想像力が必要なのだ。『くじ引き〜』でも公共性とは「立場互換性」がなければ存在し得ないとあった。

 なるほど、くじ引き民主主義とは究極の「利他」かもしれない。今の政治に無い部分であった。

(光文社新書・858円)

1975年生まれ。同志社大学教授、比較政治学。著書『アフター・リベラル』など。

◆もう1冊

金平茂紀著『筑紫哲也「NEWS23」とその時代』(講談社)。「多様な意見や立場を登場させ、社会に自由の気風を保つ」との番組方針を覚えておきたい。

中日新聞 東京新聞
2022年1月30日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク