血の繋がりがなくても「大切な命はリレーされる」 作家・宇佐美まことが最新作に込めた想い
エッセイ
『月の光の届く距離』
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大切な命はリレーされる 『月の光の届く距離』著者新刊エッセイ 宇佐美まこと
二〇一九年に『展望塔のラプンツェル』という小説を書いた。児童虐待をテーマにしたものだった。その時に、長年児童福祉に関わってこられた方々と知り合った。その後もお付き合いが続き、講演会や勉強会に参加させてもらった。そして気がついたのは、生育環境に恵まれない子どもたちが、児童相談所など福祉の手に委ねられて、それで終わりではないということだった。
子どもたちの人生はその後もずっと続いていく。むしろ、その先の方が大事なのだ。そこで里親制度や特別養子縁組という制度があるということを知った。実の親と暮らせない子らのその先の人生を引き受ける人たち。他人同士が家族となる制度だ。結びつける役目の人もいる。そこには数々の物語があるはずだ。それを書いてみたいと思った。『月の光の届く距離』は、『展望塔のラプンツェル』の続きの物語である。
ここには、予期せぬ妊娠をしてしまった女子高生がいる。精子提供を受けて赤ん坊を産む女性もいる。崩壊してしまった家を出て、夜の歓楽街を居場所と決め込む少年や、援助交際をして生活費を稼ぐ少女もいる。
登場人物の一人が「家族って何なんだろうな」と呟く。別の場面では里親が、「僕らが子どもを引き取って育てているんじゃない。僕らが彼らによって親にしてもらっているんだ」と言う。それが一つの答えかもしれない。
子を得ること、家族となること。それはとても尊いことで、覚悟のいることではあるが、でもそれほど難しく考えることはないのかもしれない。なぜなら家族の形は様々だから。生みの親から育ての親へ、大切な命はリレーされる。優しい月の光が家族をつなぐ。
たくさんの人に巡り合い、「グリーンゲイブルズ」というゲストハウスへたどり着いた女子高生美優(みゆ)は、母になる準備を始める。彼女の上にも月の光は降り注ぐ。