<東北の本棚>リズム感のある偉人伝
[レビュアー] 河北新報
仙台市生まれのアマチュア講談師の著者が、宮城県にゆかりがある人物について、講談を通して興味を持ってほしいと考えてまとめた一冊。仙台藩祖伊達政宗はもちろん、仙台が生んだ江戸時代の大横綱谷風梶之助、民本主義を唱えて大正デモクラシーをけん引した現大崎市出身の政治学者吉野作造ら10人の逸話などを講談調で記している。
このうちの一人で、仙台藩校の養賢堂に学び、後に国内初の近代的国語辞典とされる「言海」を編さんした国語学者大槻文彦の項が興味深い。17年に及ぶ言葉選びは困難を極めたとし、「毎月の書籍代は(中略)30円。当時の1円は今の2万円ほどと申します(中略)気になる本があったらすぐに買えるように、今日の数十万円に当たる金をいつも懐に入れていた」と記す。
歴史上の人物らの偉人伝には違いないが、リズム感のある文体のため読み疲れない。1964年の東京五輪、柔道の無差別級決勝で敗れた神永昭夫=仙台市出身=の項は、「先に現れし男アントン・ヘーシンク。身の丈2メートル。目方は120キロ。首は長く太く、肌は熟れたる桃のごとくピンクに染まり、はやる若駒のごとく畳の上に駆け上がった」といった具合。張り扇で釈台をたたく音が聞こえてくるようだ。(桜)
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