『帰れない村 福島県浪江町「DASH村」の10年』
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<東北の本棚>止まった「時」癒えぬ心
[レビュアー] 河北新報
東京電力福島第1原発事故による放射能汚染で、将来にわたって人が住めなくなった帰還困難区域。テレビ番組の企画でアイドルグループTOKIOが農業体験のロケを行った「DASH村」、福島県浪江町津島地区もそうした受難の土地の一つだ。
著者は朝日新聞記者。古里を失った元住民をつぶさに訪ね、長期取材した新聞連載を一冊にまとめた。時が止まった家屋や土地、避難生活を続ける人々を活写した写真の数々から、底知れない無念と望郷の思いが伝わってくる。
旧津島村は原発から北西に約20キロ離れている。原子炉建屋の水素爆発と、不運にも内陸に吹いた風によって広範囲に汚染された。国や福島県は、拡散方向を把握しながら住民には知らせなかった。
「子どもたちを守れなかった。なぜ教えてくれなかったのか」。沿岸から避難してきた人のために、子どもたちと必死で炊き出しを行った女性は、後悔の念にさいなまれ続けている。癒えることのない精神的苦痛の大きさ。表紙に登場するおばあちゃんが語った壮絶な体験にも、胸が痛くなった。
村の時計は「震災10年」でも「11年」でもなく、まだ針が「ゼロ」で止まったままなのだ-。あとがきでの筆者の叫びだ。(浅)
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集英社文庫03(3230)6095=682円。