「キャラに思い入れが強すぎるとどんどん書けなくなる」 推理作家・我孫子武丸が新作を語る
エッセイ
『残心 凜の弦音』
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我孫子武丸『残心 凜の弦音』刊行記念エッセイ
[レビュアー] 我孫子武丸(作家)
自分の書いた登場人物に愛着が湧き、続編を書きたくなることはよくある。というか、よほどの一発ネタでない限り、一冊書き終わる頃には彼らの人生の続きを想像していることがほとんどだ。そして運よくその「続き」を書かせてもらうことができることもあるわけなのだが、毎度毎度二作目、三作目となるほどにネタに困るようになり、続きが書けなくなる。
自分でもその原因はある程度分かってはいたが、今回は連作短編ということもあって割と最初からその傾向は強かった。
話を組み立てる段階ではミステリ的なネタ、プロットを基にすることが多いのだけれど、一旦キャラクターができあがってしまうと、今度は彼らの人生の行く末、仲間たちとのその後が気になり、唐突な事件や余りに過酷な仕打ちはできなくなってしまう。最初からそういう設定ならともかく、一応は普通の高校生という立場であれば事件に巡り合うこともそうはないはず。元々が「弓道に関わるネタ」を入れようとしていたこともあり、そういうネタを「彼らの人生を大きく変えることのない程度の事件」として使い、「できれば彼らの成長に繋がるとベター」……などというふうに次々と縛りばかりが増えてくるわけである。
というわけで、この『凛(りん)の弦音(つるね)』のシリーズについては割と早い段階から「青春小説」「成長小説」の部分が主体であって、ミステリ的なネタについては「無理なく当てはまるようなら当てはめる」くらいのスタンスで行くことにした。弓道について書く、ということがこれまた「人生について書く」こととほとんど同義のようにも思えるものだから、そちらを大切にするなら余計にそれ以外のことはどうでもよい、なんなら「人生こそミステリだ」とか言っちゃってもいいかもな、と思っています。彼らの行く末を作者同様見守ってくださると嬉しいです。