SNS炎上からの逃亡サスペンス――だけではない複数視点の人間ドラマ

レビュー

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俺ではない炎上

『俺ではない炎上』

著者
浅倉秋成 [著]
出版社
双葉社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784575245196
発売日
2022/05/19
価格
1,815円(税込)

書籍情報:openBD

SNS炎上からの逃亡サスペンス――だけではない複数視点の人間ドラマ

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 前作『六人の嘘つきな大学生』が本屋大賞を始め複数の文芸賞にノミネートされ、一躍脚光を浴びた浅倉秋成の待望の新作長篇。今回はインターネット上のサービス―SNSを題材にした逃亡サスペンスだ。

 物語は大学生の住吉初羽馬がとあるツイートを引用リツイートする場面から始まる。そのツイートに添付された写真は本物の殺人現場を撮影したものに見え、瞬く間に拡散された。

 程なくその写真は精査され、投稿したアカウントの持ち主が特定される。その男、大帝ハウス大善支社営業部長の山縣泰介は営業で外回りに出ていたが、支社長からの緊急呼び出し電話で帰社するとTwitterがトンデモないことになっているといわれる。自宅待機を命じられ家に戻ると、すでに野次馬がいた。山縣はひとまずビジネスホテルに避難し、妻に電話で自分が無実であることを伝えるが、現に大善市の公園では女性の死体が発見されていた。

 彼は、オフィスの郵便物の中に、事態はあなたが想像している以上に逼迫している、唯一助かる可能性があるとすれば、選ぶべき道は逃げ続けるだけ、と諭す、見知らぬ人物からの封書を発見するが……。

 かくして山縣の逃亡劇が始まるが、彼がただ単に追い詰められていく話にはなっていない。やり手の会社員で誠実な家庭人であるかのような彼の実像には、主観と客観で大きなずれがあって、それが次第に露わにされていく。話が進むにつれて、彼が巻き込まれた悲劇も深刻さを増していくという寸法で、人間ドラマとしても半端ない面白さなのだ。

 また、山縣一人の視点のみならず、冒頭の大学生や捜査担当の刑事コンビ、山縣の娘といった複数視点から描かれているところもミソ。前半はストレートな逃亡劇として一気に読み進められるが、各人物から成る章立ての仕舞いで驚愕の真相が明らかになる。期待通りの浅倉マジックが炸裂する本格ミステリーでもあった。

新潮社 週刊新潮
2022年6月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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