『来たれ、新たな社会主義』
- 著者
- トマ・ピケティ [著]/山本知子 [訳]/佐藤明子 [訳]
- 出版社
- みすず書房
- ジャンル
- 社会科学/経済・財政・統計
- ISBN
- 9784622090731
- 発売日
- 2022/04/20
- 価格
- 3,520円(税込)
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『ル・モンド』紙から精選された弱者のための経済学
[レビュアー] 田中秀臣(上武大学教授)
何百億円もする豪華なヨットや数兆円の個人資産を有するオリガルヒ(ロシアの新興財閥)の存在が、ウクライナ戦争を契機にして注目を集める。西側社会はその資産の没収を制裁措置に加えているが、そもそもなんでロシアにはこの種のスーパーリッチが多く生まれるのだろうか。その理由は所得の高低に関係なく所得税が均しく13%だからだ。
歪んだ税制が、ロシアの深刻な経済格差を生み出している根源だ、とピケティは本書で教えてくれる。そして税制や経済対策が公平さを保たないと、ロシアだけでなく、同じ権威主義国家の中国でも、あるいはハイパー資本主義と化した米国や欧州でも社会は不安定化し、国民は不幸になる、と断言している。
本書は、フランスの新聞『ル・モンド』に連載された論説から精選された時論の書である。日本でもベストセラーになった『21世紀の資本』以降のピケティの発言を知る上では最適だ。特にロシアや中国のようなポスト共産主義と、米国に代表されるハイパー資本主義が実は、グローバル化の中で見分け難いほど似てきた、という批判は傾聴に値する。
一部の富めるものが国家財産をかすめ取り、強欲に金融資産を蓄財し、課税逃れに国境を越えて暗躍する。国家主導での経済の自由化は、単に経済的弱者を生み出しているにすぎない。従来の政治勢力にはこの経済的困難を救済する可能性が見えない。例えば、伝統的な左翼勢力は、知的な人々の受けがよくても、経済的弱者には冷たい。
ピケティは、下からの「参加型社会主義」の構築を提唱する。特定の勢力に権力が集中しないように、常に社会の階層間で、人々が循環する政治体制が必要だ。そのために経済的不平等を正す累進的な所得税・資産課税などを提起している。
ピケティの社会変革の情熱と冷静な経済分析が合わさった、まさに弱者のための経済学だ。