お父さんパンダ・永明の一目惚れの様子、良浜の出産・育児など パンダ大使が感動した「アドベン」の舞台裏

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知らなかった! パンダ

『知らなかった! パンダ』

著者
アドベンチャーワールド「パンダチーム」 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103548713
発売日
2023/01/18
価格
1,595円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

奇跡的な存在が私たちを笑顔にしてくれる

[レビュアー] はな(モデル/日本パンダ保護協会パンダ大使)


お母さんパンダ・良浜の「すねポーズ」 写真提供:アドベンチャーワールド

 ジャイアントパンダを飼育するアドベンチャーワールド。中国を除くと世界一の繁殖例を誇る同園の飼育スタッフが、パンダの意外な素顔や出産・育児、不思議な生態について紹介した『知らなかった! パンダ―アドベンチャーワールドが29年で20頭を育てたから知っているひみつ―』が刊行した。

 誰かに話したくなるトリビアが満載の本作の読みどころを、日本パンダ保護協会パンダ大使を務めるモデルのはなさんが紹介する。

はな・評「奇跡的な存在が私たちを笑顔にしてくれる」

「あの子、絶対に人間が入ってるよね」。壁に寄りかかり、片膝を立て、無心に笹を頬張る、永明。アドベンチャーワールドを代表する、パンダファミリーの大黒柱です。その様子はまるで、水墨画に登場する寿老人のよう。友達が言う通り「人間がパンダの形をしているのかもしれない」と、私は永明の無防備な姿を眺めながら妄想を膨らませていました。この日は初めて、良浜と一緒にいる2020年に生まれた楓浜に会うことができ、「アドベン」に住む浜家をコンプリート。私にとっての浜家記念日でした。永明の堂々とした立ち振る舞いは、この記念すべき日を包み込む温かさに満ち溢れ、私たちを幸せな世界へと導いてくれました。

 初めてアドベンチャーワールドを訪れた時も、真っ先に向かったのは和歌山のパンダファミリーが集まる、パンダラブでした。まず驚いたのが、敷地の広さ。そして、外の展示場に降り注ぐ、和歌山のまろやかな日差しでした。ここでは、心ゆくまでパンダたちを拝むことができる! あっち行ったり、こっち行ったり。時間を気にせず、自由にパンダ姉妹の間を行き来することができるのです。まだ楓ちゃんが良ちゃんのおなかにいた時期だったので、この2頭の母娘以外のファミリーメンバーに、まずはご挨拶。外でまったりしていた永明は貫禄ある姿でダディー節を唸らせ、結浜は噂通り、頭のてっぺんが「ピョン」と立っていました。双子の美人姉妹、桜浜・桃浜に加え、過去一番小さく生まれた彩浜――今や「社長」と呼ばれる永明似の風格の持ち主にもご挨拶。リラックスした様子で、私たちパンダラバーズを迎えてくれた浜家は、この日常を当たり前のように受け入れています。その光景は、飼育員さんたちが築き上げた信頼感のあらわれだと実感しました。

「アドベン」には飛行機に乗らないと行けない地域に住んでいる私は毎日、動画や写真で飼育員さんと動物たちが触れ合う様子を観ています。遊具で遊ぶ子、飼育員さんと追っかけっこをする子。ペットと人間の関係ではなく、同じ生き物同士としての信頼感を築き上げるためには、どのような努力が必要なのか? まさに「29年で20頭を育てた」パンダチームだからこそ知るひみつなのです。

 永明は竹に関しては相当なグルメだそうで、その竹選びには飼育員さんたちも大変苦労されているとのこと。でも、そんな永明がいまの奥さん、良浜に一目惚れした時の様子やジェントルマンとしての立ち振る舞いは、パンダ界でも一目置かれるほどのイケパンぶりです。ギネスに記録されるほど、圧倒的な子孫の数を残しているお父さんパンダの素質を持って生まれた永明をここまで育て上げたのも、「アドベン」のパンダチームの愛情ですね。

 そして、その永明と、ともに相性抜群だった梅梅と良浜、2頭のグレートマザーズ。私は良ちゃんにしか会ったことはありませんが、まだ楓ちゃんと同居していた時の様子を動画で観ていて、子供のように一緒にはしゃぎ、遊んでいた姿が印象的でした。まるで「これが最後の出産になるかも」と思っているかのように、良ちゃんの愛情が楓ちゃんの前では爆発していました。その後、楓ちゃんが独り立ちした日。楓ちゃんに限らず、子パンダは一年半ほどで親離れをしますが、その姿を見届けた日は涙、涙で画面に流れる親子の映像がぼやけて見えました。

 先日、和歌山のイベントでパンダチームを率いる獣医で副園長の中尾さんにお会いする機会がありました。この日は特別に、「アドベン」から生中継でパンダの様子を私たちに届けてくださったのです! 映像に映ったのは良ちゃんでした。パンダは夜に起こされても翌日の体調に響くということはないらしく、良ちゃんもサプライズの夜食をうれしそうに頬張っています。そういえば、この本に掲載されていた「良浜のすねポーズ」の写真。反抗的(だけどかわいい)な表情を浮かべる良ちゃんからは想像できないほど、食べている時はまん丸のニコニコ顔です。プンプン鳴きながらすねポーズを取るほど、飼育員さんには素直に甘えることができるんですね。表舞台の顔しか見ていない私にとって、本に掲載されている「甘えん坊」なパンダたちの素顔はとても新鮮でした。

 さて、この原稿を書いている間も、アドベンチャーワールド、そして上野動物園から旅立つパンダたちのことが頭から離れません。パンダ界の未来のためとはいえ「アドベン」からは永明、桜浜、桃浜の3頭が中国へ旅立つことになり、応援する気持ちとさみしい気持ちで胸が張り裂けそうです。ただ、研修で中国を訪れた飼育員さんが良ちゃんの最初の双子のメス・梅浜に再会した時のエピソードを読み、パンダたちは日本に住んでいた時の記憶と共に生きていく。和歌山で出会った人々や景色はきっと覚えている。そう思えるようになり、少しだけ気持ちが楽になりました。

 かわいいだけではなく、その奇跡的な存在が私たちを笑顔にしてくれる、パンダ。この本を読み終わった時にはパンダのことがもっともっと好きになりました。

新潮社 波
2023年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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