『鯨オーケストラ』
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吉田篤弘エッセイ 「大きな」物語の終わりに
[レビュアー] 吉田篤弘(作家)
『流星シネマ』『屋根裏のチェリー』に続く三部作の完結編『鯨オーケストラ』が刊行された。この3つの物語を繋ぐ輪とは何か……。作者・吉田篤弘が語る。
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三つの小説を書きました。『流星シネマ』『屋根裏のチェリー』、そして、このたび上梓された『鯨オーケストラ』です。
この三冊は、ひとつながりの物語としても読めますし、それぞれに独立した一冊としても読めるようになっています。
三つの話をつないでいるのは、都会のはずれに流れているひと筋の川で、といっても、その川のあらかたは暗渠となって、人知れず地中を流れています。目に見えるかたちで、そこに流れているのではなく、物語のいちばん底の方に、いつでもひと筋の川が流れているのです。
表題にある「鯨」の一字は、大きな絵画に描かれた鯨を指していたり、あるいは、鯨のように豊かな体格の人物を意味したりしています。さらには、いまは暗渠となった川に、その昔、鯨が海からさかのぼってきて息絶えたという伝説もふまえています。
いずれにしても、それは「大きなもの」で、この「大きなもの」が都会のはずれの小さな町にさまざまなかたちで投影されます。
『鯨オーケストラ』は、三つの物語の最後ということになりますし、「鯨」ばかりか、「オーケストラ」という言葉もまた、「大きな」イメージが喚起されます。ですから、物語を書き継いできた者としては、最後にとてつもなく「大きなもの」が水しぶきをあげて姿をあらわすのではないかと夢想していたのです。
ところが、書いているこちらも「おや?」と思うような、「小さなもの」が物語の終盤を引き受けてくれることになりました。
それが何であるかはお読みいただいてのお楽しみですが、三つの物語を書き継いでたどり着いたのが、「大きなもの」ではなかったというのが、なによりの発見でした。
大きくなくていいし、広くなくていい、高い必要なんてないし、「たくさん」も、「いろいろ」も小ぢんまりとほどほどでいい。
「だって、最初はみんな小さくて、すべてが小さかったんですから」
【著者紹介】
1962年東京都生まれ。小説を執筆するかたわら、クラフト・エヴィング商會名義による創作とデザインの仕事を手掛けている。著書に『つむじ風食堂の夜』『それかはらスープのことばかり考えて暮らした』『台所のラジオ』『おやすみ、東京』『流星シネマ』『屋根裏のチェリー』などがある。