『谷崎潤一郎の世界史』西村将洋著(勉誠出版)

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谷崎潤一郎の世界史

『谷崎潤一郎の世界史』

著者
西村将洋 [著]
出版社
勉誠出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784585390206
発売日
2023/02/20
価格
5,280円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『谷崎潤一郎の世界史』西村将洋著(勉誠出版)

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

 「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」は谷崎潤一郎が一九三三年から翌年にかけて発表した作品。日本人の「陰翳」好みについて語った随筆であり、翻訳を通じて外国にも紹介され、海外の建築家や映画監督が、日本文化を学ぶ作品として高く評価してもいる。

 ところが、随筆を書く五年前に谷崎が建てた自邸は、日本風と中国風が入り混じった様式で、西洋由来の電気器具も積極的に利用していた。当時、谷崎はすでに海外経験をもち、作品が外国語に訳されてもいた。「西洋」「東洋」「日本」に関する出来あいのイメージをふまえながら、それを混交させることで「裂け目」をもたらし、読者の想像力を活性化させる。そうした仕掛けが「陰翳礼讃」という作品には施されていた。

 文学の領域における影響と論争に加え、同時代のモダニズム建築とその批判、人種主義や女性像に関わる論点など、さまざまな問題が交差する作品として、著者は「陰翳礼讃」を新たに読み解いてみせる。そこで明らかになるのは、谷崎の作家としての力量とともに、一九三〇年前後の日本の思想・文化がもっていた多様な可能性なのである。

読売新聞
2023年4月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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