指をつめた元ヤクザや前科者もいた 「仮面ライダー」東映生田スタジオの余計すぎる裏話とは

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「仮面」に魅せられた男たち

『「仮面」に魅せられた男たち』

著者
牧村 康正 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784065312742
発売日
2023/03/27
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『仮面ライダー』の聖地を掘り下げまくった「実録・東映生田スタジオ」

[レビュアー] 吉田豪(プロ書評家、プロインタビュアー、ライター)

 映画『シン・仮面ライダー』が公開されたいま、東映の正史では語られることがない『仮面ライダー』の聖地・東映生田スタジオについて掘り下げていく、この本。著者がアニメ界屈指の厄介者のノンフィクション『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』の牧村康正氏なので、余計なことばかり掘り下げまくっているからとにかく面白い。

 たとえば、生田の「現場スタッフのなかには、実際に指をつめた元ヤクザ、刺青を彫り込んだ元自衛官、前科者、さらには使い込みがばれて逃亡中のノミ屋まで」いて、それは「仕事の腕さえあれば本人の過去や素性を問わない解放区の側面と、映画界の就職難民を収容する救済地の側面があった」ためだった、と。

 さらには「生田で助監督だった前川洋之」は「大泉にいたころ、客から預かった賭け金の使い込みがばれて逃亡中のノミ屋だった。ほとぼりを冷ますために大泉から生田へ移り、スタジオ所長の内田有作にかくまわれていた」とか、具体的なバックボーンも掘り下げていくのだ。そういう人が『イナズマンF』とかを監督していたと思うと夢がある!

 生田スタジオ初代所長を務めた内田有作の父・内田吐夢も、映画界の巨匠イメージとは違って「愚連隊から成り上がった」男(当時の呼び名がトム)なのもいい話すぎるのだ!

 なかでも最高だったのが、『仮面ライダー』のアクションを担当した大野剣友会の代表・大野幸太郎が、変身ポーズを生み出すことになる高橋一俊を見出したきっかけの話。

 ふたりにはこの世界に入る前から接点があって、「一俊さんは大野さんの家に泥棒に入ったらしいんです。おそらく庭先に忍び込んだかなんかしたんでしょうね。大野さんは一俊さんをとっ捕まえたんだけど、そのときに目をつけたんですね。こいつは身軽だし、いつか使えるんじゃないかと。大野さんは人間がでかいんですよ」って、余計な話すぎる!

新潮社 週刊新潮
2023年6月1日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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