『ジョン・メイナード・ケインズ 1883‐1946 経済学者、思想家、ステーツマン 上・下 (原題)JOHN MAYNARD KEYNES』ロバート・スキデルスキー著(日本経済新聞出版)

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ジョン・メイナード・ケインズ 1883-1946(上)

『ジョン・メイナード・ケインズ 1883-1946(上)』

著者
ロバート・スキデルスキー [著]/村井章子 [訳]
出版社
日経BP 日本経済新聞出版
ジャンル
歴史・地理/伝記
ISBN
9784296113569
発売日
2023/02/21
価格
4,950円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ジョン・メイナード・ケインズ 1883-1946(下)

『ジョン・メイナード・ケインズ 1883-1946(下)』

著者
ロバート・スキデルスキー [著]/村井章子 [訳]
出版社
日経BP 日本経済新聞出版
ジャンル
歴史・地理/伝記
ISBN
9784296113576
発売日
2023/02/21
価格
4,950円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ジョン・メイナード・ケインズ 1883‐1946 経済学者、思想家、ステーツマン 上・下 (原題)JOHN MAYNARD KEYNES』ロバート・スキデルスキー著(日本経済新聞出版)

[レビュアー] 牧野邦昭(経済学者・慶応大教授)

学者や愛国者 巨人の素顔

 現代の経済学に大きな影響を与え、批判を受けながらも経済危機のたびにその思想が注目される大経済学者ケインズ。本書はケインズ研究の第一人者の歴史学者による決定版の評伝である。

 ケインズは研究に専念する経済学者ではなく、第一次・第二次世界大戦では英国の戦時経済の運営に携わり、ジャーナリズムの場で多くの時論を書いて世論に訴え、世界恐慌に対しては『雇用・利子および貨幣の一般理論』でその原因の分析と具体的な処方箋を示し、世界銀行や国際通貨基金(IMF)を軸とするブレトン・ウッズ体制の確立にも貢献した。ケインズが様々な分野で能力を発揮できたのは、困難な状況の中でも活力と楽観主義を備え、現実の出来事に注意を払って分析し、実行可能な形での提言を行い、それを効果的に説得する能力を持っていたからだった。能力が低いとみなした相手には無礼な態度をとることも多かったケインズだが、意見の異なる大蔵省やイングランド銀行、さらにハイエクなど他の経済学者との議論でも、相手の主張に優れている面があればそれを取り込み、自分の意見を修正できる柔軟性を備えていたことがケインズを知の巨人とした。

 ケインズの理論と政策の限界を現在の知見から指摘するのは簡単である。しかし世界恐慌によりファシズムやスターリン独裁下のソ連型社会主義が注目される中、ケインズの『一般理論』が収容所や処刑なしに繁栄を回復・維持する政策の理論的根拠とされたことの意義は、いくら強調してもしすぎることは無い。

 大部かつ多くの専門用語も登場する本書だが、読み進めることで、若き日の同性愛や妻リディアとの深い愛情などのケインズのプライベートな側面、より良い世界を目指し実践可能な新しい経済理論と国際秩序を構想した理想主義者かつ現実主義者のケインズ、そして財政破綻の危機に直面した英国を救うために文字通り命を削って米国と厳しい交渉を何度も繰り返した愛国者のケインズが浮かび上がってくる。「人間」ケインズを知るうえで必読の評伝である。村井章子訳。

読売新聞
2023年6月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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