『企業戦略とアート』上坂真人著

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企業戦略とアート

『企業戦略とアート』

著者
上坂真人 [著]
出版社
光文社
ジャンル
芸術・生活/芸術総記
ISBN
9784334046699
発売日
2023/06/14
価格
1,122円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『企業戦略とアート』上坂真人著

[レビュアー] 黒沢綾子

■民間の力で美術振興

美術館には行っても絵画や彫刻などのアート作品を買ったことはない、というのが日本の典型的な美術ファンだろう。ビジネス界においても、美術展に協賛するなど文化貢献活動に取り組む企業はあるが、本格的にアートをビジネスに生かす社は少ない。

日本はGDP(国内総生産)では世界第3位の経済大国なのに、アート作品を売買する美術市場におけるシェアはわずか1%という。世界から「周回遅れ」であり、世界を知らない「江戸時代」さながらだと著者。だが、美術展の集客力は世界随一と関心は高く、アートを絡めた事業の伸びしろは大きいと説く。

アートを事業にするメリットはあるのか。本書では、アートの活用を日本企業に提案・運営する企業のトップだった著者が、世界と日本の現状を比較し、今後どうあるべきかを具体的に論じている。

例えばドイツ銀行やスイスの金融大手UBSなどは、世界の有力画廊が出展して美術品を取り引きする国際的アートフェアの主要スポンサーとなり、一般客に先駆けて自社顧客に限定した開催日を設けるなど、富裕層を囲い込むサービスを充実させている。

日本企業がアートを使って国際的ブランディングに成功した例も。あるカメラメーカーは、世界から画廊や出版社が出展するパリの写真見本市に合わせ、日本の若手写真家の展示販売会をパリで開いて好評を博した。技術一辺倒でなく感性に訴えた。

芸術を金もうけに使うな、芸術は清貧であるべきだという観念は、日本で根強い。しかし補助金頼みの日本の美術館より、米メトロポリタン美術館のように運営費の大半を寄付や基金でまかなう方が、本書がいう真の意味での「公共美術館」かもしれない。

人々が作品を買い、企業がアートを活用して経済を回すことで、アーティストが育つ土壌が整う。そのためには、アートを鑑賞して語り合う教育が何より重要だ。アートは自分に関係ないという企業人にこそ、読んでもらいたい。(光文社新書・1122円)

評・黒沢綾子(文化部)

産経新聞
2023年6月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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