『カラー版 名画を見る眼Ⅰ』
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『カラー版 名画を見る眼Ⅱ』
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カラーになって一番嬉しい名著
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
いにしえの名作新書である。高階秀爾『カラー版 名画を見る眼』I・IIは、昭和40年代初版の『名画を見る眼』正・続のカラー化・リニューアル版。Iは今年5月の、IIは6月の新刊である。旧版は累計82万部のロングセラーだからお読みになったかたも多いだろう。わが家の本棚にも、なつかしの青版がずっとある。
わたしがこれを初めて読んだのは80年代、高校生のとき。実際に見たことがない絵画がほとんどだったから、図版を食い入るように見て実物を想像した。その図版がすべてカラーになったのはうれしい。そのうえ、文字がぎっしり詰まっていた版面が一新されて読みやすくもなった。
内容を思い出しながら読む。ベラスケスの名画《ラス・メニーナス》(本書では《宮廷の侍女たち》)は謎かけのちりばめられた絵画だが、その読み解きのスリルを初めて知ったのはこの文章でだった。フェルメールもマネもこの本が入り口だった。その後類書をいくつ読んでも、これらのかがやきは失われない。絵画批評は世につれて変化するかもしれないが、絵画に向かい合って立ち、自分の中でことばを育てる姿勢は永遠のものだからだ。
おなじ著者による中公新書の『近代絵画史』上・下(1975年初版)は2017年、すでにカラー版として再生している。それ以来、岩波新書のほうはいつだろうと心待ちにしていた。すぐれた本が伴走してくれる人生は楽しい。