『お寺の行動経済学』中島隆信著(東洋経済新報社)

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お寺の行動経済学

『お寺の行動経済学』

著者
中島 隆信 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784492315484
発売日
2023/04/07
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『お寺の行動経済学』中島隆信著(東洋経済新報社)

[レビュアー] 西成活裕(数理物理学者・東京大教授)

 仏教の儀式と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かべるのは葬儀だろう。私は昨年父を亡くし、これまで様々な儀式を執り行い、今は一周忌の準備をしている。決まり事が本当に多くあり、中にはよく考えると合理的でないと感じるものもあった。それでもなぜ私たちはそうした儀式をするのだろうか。

 人間それほど合理的ではない、というのが行動経済学の核心であるが、著者はこれを仏教の儀式に当てはめて考察している。その議論の明快さは見事であり、何度も膝を打つ。受験生の合格祈願についても触れていて、祈る暇があれば勉強した方が合理的だが、それでも祈願をしてしまう心理も行動経済学で考えれば納得がいく。

 二百ページに満たない本であるが、中身はかなり濃い。現在の仏教に至る経緯や、仏教が抱える矛盾まで、本質を突いた議論を展開している。ただ批判しているのではなく、今後の仏教のあり方に対して建設的で具体的な提案が示されている。現代に相応(ふさわ)しい仏教とその儀式はどうあるべきなのか、それを考える良いきっかけになる本である。

読売新聞
2023年6月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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