子供の「自己肯定感」を高めるのに一生懸命な親だからこそ危ない…現役保育士「てぃ先生」が教える法則とは

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アイラブみー じぶんをたいせつにするえほん

『アイラブみー じぶんをたいせつにするえほん』

著者
オバック [イラスト]/たけむら たけし [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/教育
ISBN
9784103551812
発売日
2023/06/21
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

自分のためのシャンパンを注ごう

[レビュアー] てぃ先生(保育士/育児アドバイザー)


てぃ先生

 親ならば、子どもには自分を大切にしてほしいと思うものだろう。自己肯定感を育み、自分を愛せる子になってほしい。そんな願いから日々子どもを慈しんでいるだろうが、自身のこととなるとどうだろうか。親も、自分自身を大切にできているのか。

そんな、親にこそ抜けがちな視点を指摘するのが、現役保育士の「てぃ先生」だ。Twitterフォロワー数は60万人超、YouTubeチャンネルの登録者数も80万人超でSNSの総フォロワー数160万人以上という、多くの親がその言葉を参考にする人気の男性保育士である。てぃ先生が、NHK・Eテレの人気番組を絵本にした『アイラブみー じぶんをたいせつにするえほん』(オバック・イラスト、たけむらたけし・著)を読んで伝える、親にこそ伝えたい法則とは――。

てぃ先生・評「自分のためのシャンパンを注ごう」

「シャンパンタワーの法則」という、僕が講演会で必ずする話があります。ピラミッド状に積んだグラスの一番上が自分のグラス。二段目、三段目に置いてあるのが、子どもやパートナーや家族のグラス。自分はいつも、二段目のところから、幸せというシャンパンのボトルをドボドボ注いでいる状態です。だから二段目から下は全部満たされても、一番上に置いてある自分のグラスは空っぽのままなんですね。大人が子どもに対していい親でありたい、大切にしたい、と思うなら、まず一番上の自分のグラスにシャンパンを注ぐことが大事です。たとえばお母さんがお風呂上がりに子ども優先でボディクリームを塗りますね。それで余ったクリームを自分の体に塗る。僕は、それは逆だと思うんです。自分の体にまず「ありがとう」と塗ってあげて、余ったボディクリームを子どもに塗るぐらいがいいと思います。子どもの肌は潤っているけど、自分がかさかさになってしまっているお父さんやお母さんが多いのではないでしょうか。

『アイラブみー じぶんをたいせつにするえほん』を読んで、「パンツは大事なところを守っている」という話や、プライベートゾーンの話も出てくるので、最初は性教育の本なのかなと思ったんです。でも最後まで読んで、もっと広い範囲のことを扱った、自分自身を大切にするための本だと感じました。小さな子どもの場合、「自分を大切にしよう」と言われても意味がわからない。年齢によってはそもそも「おもちゃを大切にしよう」ということすらわからない。そういう子どもがこの絵本に触れることで、「そもそも大切ってなんだろう」という根本のところがわかりやすくなると思います。例えば、絵本の中に、「泥んこ遊びをしたら自分できれいにする」とか「寒い時は温まろう」という場面があります。親はついつい「自分でやりなさい」「自分で手を洗いなさい」「自分で着替えなさい」とか言いがちですが、そういう注意をするよりも、この絵本を一緒に読んだら、子ども自身に、自分で自分のことをする大切さ、楽しさをわかってもらえると思います。一冊ですべてが完結するのではなく、人生における大切なことの導入になるし、これを起点にして、「こういう時はどうだろう」など、子どもと話し合いやすくなる絵本だと感じました。

「自分を大切にする」ことを教えたいなら、大切にされた時の嬉しさを子どもに教えてあげることです。大切にされたことがない子どもは自分を大切にできるようにはなりません。「大切だよ」とか「好きだよ」と言うのもいいですよね。初めは言葉の意味がわからなかったとしても、親に言われたら子どもは嬉しい気持ちになります。

 絵本は、子どもとコミュニケーションをとりながら、わかりやすく知らない世界を伝えるいいツールだと思います。

僕は保育士として、絵本を子どもに読むことも多いですが、好きになってもらおう!と気負いすぎず、子どもに、お父さんやお母さんと本を使ったコミュニケーションをする時間自体が幸せだと思ってもらうのがコツです。あわよくば本好きになってもらおうと思っても、それはかなり難易度が高いことなんです。面白い本に出会わなければ一生つまらないままでしょう。でも、絵本をお母さんが読んでくれる時間が嬉しいとなったら、「ママ、絵本読んで」と持ってきますから、自然と絵本を読む機会も増えていきます。最初は絵本自体に興味がなくても「読んで」と言えばお母さんがにこにこして、ひざの上に乗せてくれて、ゆったり本を読んでくれる。そうすると子どもはまずその時間が好きになるので、そのうちに楽しい絵本に出会って、絵本が好きになるかもしれません。

あとは、子どもの集中を邪魔しないことも大事だと思います。僕は基本的に、読んでいる最中に子どもに問いかけはしません。子どもが「ゾウさんがいる」と言ったら「ゾウさんいるね」とか「ゾウさん、大きいね」と答えるのはいいと思いますが、大人の方から「ここにゾウさんいるよ」と言うのはおすすめしません。まだ読んでいる途中に子どもがページをめくろうとすると、人によっては「まだだよ」と、ページを押さえて読み続けたりしますが、少なくとも子どもはそのページに飽きているので、次に行ってもいいんです。内容はわからないけど絵は好きという場合もあって、絵が見たくて読んでいる子もいますから。無理して絵本を好きになってもらおうとせず、まずは絵本の時間を好きになってもらおうとするだけで十分だと思います。

ただし、絵本の時間を好きにさせるために、親が無理してまで読むのは逆効果です。子どもに自分の大切さを伝えたいなら、まず大人自身が自分のグラスを満たしてあげてほしいと思います。

新潮社 波
2023年7月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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