『中国拘束2279日』鈴木英司著(毎日新聞出版)

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中国拘束2279 日

『中国拘束2279 日』

著者
鈴木 英司 [著]
出版社
毎日新聞出版
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784620327747
発売日
2023/04/24
価格
1,760円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『中国拘束2279日』鈴木英司著(毎日新聞出版)

[レビュアー] 井上正也(政治学者・慶応大教授)

 コロナ禍が一段落した今日でも、日本の中国研究者の多くは、中国への渡航を控えている。それは中国で外国人が拘束される事案が度々起こっているためだ。

 本書は、日中友好団体の代表であった著者が、スパイ容疑で約六年間拘束された記録である。中国で獄中生活を過ごした人物がその経験を語ることは少ない。関係者を巻き込んだり、自身に後難がふりかかったりすることを恐れるためだろう。その点で、逮捕から取り調べ、大使館員との接見から、獄中生活に至る体験が克明に綴(つづ)られた本書の記録的価値は大きい。

 本書を読んで恐ろしいのは、中国の「スパイ罪」の曖昧な運用である。優れた研究者やジャーナリストであれば、多様な情報源を持つことは当然だ。だが、それが当局のさじ加減一つで黒と認定されては、現地での調査研究や交流はほぼ不可能になる。そして、ひとたび逮捕されれば、人権意識の薄い国では弁護士も頼りにならず、減刑を餌に自白へと追い込まれてしまう。著者の事例は決して特殊ではない。中国に関わる人なら、目を通しておくべき警鐘の書である。

読売新聞
2023年7月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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