『スカートと女性の歴史』
- 著者
- キンバリー・クリスマン=キャンベル [著]/風早 さとみ [訳]
- 出版社
- 原書房
- ジャンル
- 文学/外国文学、その他
- ISBN
- 9784562072712
- 発売日
- 2023/04/24
- 価格
- 3,850円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『スカートと女性の歴史 ファッションと女らしさの二〇世紀の物語 (原題)Skirts』キンバリー・クリスマン=キャンベル著(原書房)
[レビュアー] 小池寿子(美術史家・国学院大教授)
個性を演出 美しく熾烈に
コロナ禍が収束の兆しを感じる今、賑(にぎ)わいを取り戻した街を彩るのは、多様化したファッションだ。トレンドに敏感な若者のみならず、幅広い年齢層を含めて20世紀服飾界に君臨したデザイナーへの関心も大いに高まっている。
服飾史本は数々あるが、本書は近代ファッションが興隆した19世紀後期から21世紀までの変遷を猛烈なスピードで語る。ドレスを含めたスカート10タイプを章立てた画期的なアイディア本であり、女性はいかにアイデンティティを託してきたか、ジェンダーレスの今日、何が起こり、どうなるのか問いかける。
居並ぶのはギリシア復古のデルフォス、シャネルのリトル・ブラック・ドレス、「ニュー・ルック」の創始バー・スーツやボディコン・ドレスなどの面々だ。スカートはロング、ミディ、ショートに区分されるが、単なる型の説明に終らない。デザイナーのみならずプロモーションに関わるハリウッド映画業界や経済界、ファーストレディを旗印にする政治・経済界の戦略が描き出される。
情報の洪水に押し流されるきらいはあるが、服飾史を多少心得ていると激動の20世紀の立ち位置がわかる。
服飾史の転換期はルネサンス、ロココ、産業革命以降である。概してコルセットなどで補正し、女性の特質を誇張する方向へと推移するが、身体解放はオートクチュールのメゾンを開き、ファッション新時代を開拓したウォルトに始まる。
しかし服飾の発展を促したのはデザイナーばかりではない。産業革命の原動力たる繊維業だ。ウールや麻、シルク、インド綿に加えて化学繊維の開発、縫製技術とミシンの発明も画期的なデザインを可能にした。染料開発の大躍進も必須である。産業技術のお披露目の場である万国博覧会や緊縮を強いた戦争も推移の大きな要因として機能した。
アイデンティティ獲得の美しくも熾烈(しれつ)な闘争を軽快に描く本書は、人間の飽くなき探求心と欲望をもえぐり出す。さて、服飾を纏(まと)う身体そのものを改造する時代が訪れるのだろうか。風早さとみ訳。