<書評>『この夏の星を見る』辻村深月(みづき) 著

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この夏の星を見る

『この夏の星を見る』

著者
辻村 深月 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041132166
発売日
2023/06/30
価格
2,090円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『この夏の星を見る』辻村深月(みづき) 著

[レビュアー] 吉田伸子(書評家)

◆コロナ禍に見つけた希望

 あぁ、なんて優しく、そして力強い物語なのか。読みながら、コロナ禍で疲弊した心が、ゆっくりと癒(いや)されていく。

 物語を動かしているのは、中高生の三人だ。茨城の県立高校二年生の亜紗、渋谷の区立中学一年生の真宙(まひろ)、五島列島の高校三年生の円華(まどか)。住む場所も学年も異なる三人それぞれのドラマが、物語が進むにつれ、一つに重なっていく。

 亜紗は楽しみにしていた天文部の合宿がなくなったばかりか、去年から取り組んでいる望遠鏡作りのプロジェクトも宙に浮いてしまっている。一学年に一クラスしかない中学の新入生で、男子は自分しかいない、という状況に置かれた真宙は、学校に行きたくないあまり、コロナが長引けとさえ思っていた。円華の家は旅館を営んでおり、他県からの観光客を泊めていることで、感染にナーバスになっている島の住民たちから白眼視され、親友からも距離を置かれてしまう。

 ある日、ひょんなきっかけで理科部に入部した真宙は、亜紗たちの天文部が過去に行った手作り望遠鏡による星を観測した活動「スターキャッチコンテスト」の記事を見つける。そのコンテストに興味を持った真宙と、同じく理科部で同級生の天音が、コンテストについての質問メールを送る。円華は円華で、同級生の武藤に誘われ、天文台へ行き、生まれて初めての天体観測を体験していた。

 ここから、真宙や円華、亜紗たちが合同で「スターキャッチコンテスト」を行うまでの日々が始まる。夏に行われたコンテストは、やがて日本各地の天文部へと繫(つな)がり、十二月九日のISS(国際宇宙ステーション)の日本実験棟を観測する全国的なイベントに結実する。

 大人たちでさえ適応に悩んだコロナ禍での日々を、中高生たちはどんなふうに受け止めていたのか。彼らの日々の苦悩だけではなく、彼らが自力で見出した希望までをも描いているところが素晴らしい。今もまだコロナとともにある私たちにとって、大きな救いとなる物語である。

1980年生まれ。作家。2012年『鍵のない夢を見る』で直木賞。

◆もう1冊

『空よりも遠く、のびやかに』川端裕人著(集英社文庫)。地学部の高校生たちの青春小説。

中日新聞 東京新聞
2023年7月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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