『成瀬は信じた道をいく』
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快進撃ならぬ怪進撃を描いた五編は、読んでいて実に痛快だ!
[レビュアー] 吉田伸子(書評家)
天衣無縫で泰然自若、最高・最強のヒロイン、成瀬あかりが帰ってきた!
R-18文学賞初の三冠を受賞した前作、『成瀬は天下を取りにいく』が、各紙誌で絶賛され、“成瀬旋風”を巻き起こしたことは、記憶に新しい。続編である本書は、さらにパワーアップ。膳所高校から京都大学へ進学した成瀬の、快進撃ならぬ怪進撃を描いた五編は、読んでいて実に痛快だ。
前作も同様なのだが、この成瀬シリーズの肝は、個々の物語が成瀬視点ではなく、成瀬に関わる人々の視点で描かれていくことにある。それによって、成瀬という強烈なキャラクタが彼らにもたらすインパクトと違和感までをも、きっちりと浮かび上がらせているのだ。その絶妙な塩梅が堪らない。
成瀬の唯一の友人(!)であり、成瀬あかり史の観察者である島崎の後継者登場! の感がある「ときめきっ子タイム」は、ゼゼカラ(M-1出場のために、成瀬と島崎で組んだ漫才コンビ名)の舞台を見てファンになった小学生・北川みらいの物語で、「成瀬慶彦の憂鬱」は、名前から推察されるように成瀬の父の、「やめたいクレーマー」は、成瀬がバイトをしているスーパーの常連で、ついついクレームをいれてしまう主婦・呉間言実の物語だ。
「コンビーフはうまい」は、成瀬とペアで「びわ湖大津観光大使」に選ばれた大学二回生・篠原かれんの物語で、「探さないでください」は、それまで登場した人物たちが総出で「成瀬を探す」物語。
どの物語も、成瀬らしさが爆発していて、前作からの成瀬ファンには堪らないのだが、本書から読んでも大丈夫(とはいえ、本書を読めば100パー前作を読みたくなります!)。
五編それぞれにいいのだが、祖母・母ともに「びわ湖大津観光大使」(祖母の時代はミス大津)を務め、「誰よりも、びわ湖大津観光大使になるために生きてきた」と自負するかれんが、成瀬と関わることで、祖母・母の望む自分ではなく、自分がありたいままの自分でいることを選ぶようになるのがいい。
かれんだけではない。島崎しかり、みらいしかり、言実しかり、成瀬と関わった人々は、知らないうちに自分をアップデートさせていくのだ。そこがいい。もちろん、成瀬自身は、そんなこと知らんがな、なのだが、そこもまたいい。
以後、成瀬がどんなふうに年齢を重ねていくのか。このシリーズからは目が離せない!