『音楽と生命』
- 著者
- 坂本 龍一 [著]/福岡 伸一 [著]
- 出版社
- 集英社
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784087890167
- 発売日
- 2023/03/24
- 価格
- 2,200円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
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『音楽と生命』坂本龍一、福岡伸一著(集英社)/『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』坂本龍一著(新潮社)
[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)
音を楽しむ姿 最期まで
病床で、新聞の新刊広告を見て、『音楽と生命』を書店に注文したのは3月29日だった。その前日に世界的音楽家は71歳で亡くなっていたことは、4月2日の発表前で知るよしもなかったが、氏がガンで闘病中とは知っていた。部位が違うものの同じ国民病で入院したので、何かを求めて届いた本を読み始めた。
清涼感のある対話であった。坂本さんが2014年に中咽頭ガンの罹患(りかん)を公表した3年後の対話をもとにした本書では、「有限であるからこそいのちは輝く」と生物学者が言えば、仕事を再開した音楽家も、演奏は「一回性」があるからこそアウラ(オーラ)があると語る。そして、自分自身の身体(からだ)を含め、言葉やロゴスでは表しきれない自然(ピュシス)をいかに音で表現するか、年下の学者に刺激され、楽しそうに語り合っている。有限で終わりがあるというとせつないが、それは想像力の源なのだ。
6月刊の『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』は、転移が発覚し、3年前の暮れに「何もしなければ余命は半年」と宣告され、翌年、20時間に及ぶ手術を終えた氏が、後半生を克明に語る自伝である。こちらでは放射線治療のため口の中がただれ、唾を飲むのも辛(つら)かった体験も告白される。多少なりとも手術で痛みが現実になってから読んだので、退院後とはいえ、身体に響いた。体調の衰えで力を出し切れなかったという「初めての挫折」の章は胸にこたえた。
だが、本書でも溢(あふ)れ出るのは、命尽きる瞬間まで新たな曲を作りたい、納得いく演奏を残したいとの思いである。大病で深まったノイズや「非同期」への共振。若き日には毛嫌いしていた音楽を見直し、こだわりを捨てる……。「あと何回、満月を」と思いつつ、今年1月にリリースしたアルバム『12』に至るまでハングリー精神を失わない姿には身心を鼓舞された。
音楽を作っている間だけは不思議と痛みを忘れたという。音を楽しむその姿は美しかった。