『リラの花咲くけものみち』
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獣医師がタフな理由
[レビュアー] 藤岡陽子(作家)
本作品を書くにあたって、獣医師の先生方や獣医学生のみなさんに、みっちりと取材をさせていただいた。その際、切に感じたのは、
「獣医師は心身ともにタフでないと務まらない」ということ。ある意味、人間のお医者さん以上にハードワークではないかと思った。
なぜなら動物の命は、その個体によって重みがまるで異なるからだ。
犬や猫など小動物を診る獣医師は、飼い主が「もうこれ以上の治療はしなくていい」と言ったなら、自分の思いとは別に治療を諦めなくてはいけない。
牛や馬や豚や鶏を診る大動物(産業動物)の獣医師は、はじめから「食用」として命と向き合わなくてはならない。
獣医師を目指すほとんどの人が「動物好き」であることは、言うまでもない。でもそんな動物大好きな彼らが、命の選別をしなくてはいけないからハードワークなのである。
長い物語の中で、獣医学生である主人公の聡里は、いくつもの試練を乗りこえていく。
獣医師の役割が動物の命を救うことだけではないという事実に直面し、迷い、苦しむ。
今回私は、内向的で自分に自信が持てない人を主人公にしたいと思った。生きることに消極的だった人が、夢を持つことで強く変わっていく。そんな姿を描きたかった。
タイトルにある「けものみち」は主人公の聡里が歩いている道であり、いまを生きる私たちが歩いている道でもある。