「LGBT法」が気になった人へ…「社会正義」で儲けを企む貪欲な大企業の資本主義とは

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす

『WOKE CAPITALISM 「意識高い系」資本主義が民主主義を滅ぼす』

著者
カール・ローズ [著]/庭田 よう子 [訳]/中野 剛志 [解説]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784492444740
発売日
2023/04/14
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「社会正義」で儲けを企む貪欲なウォーク資本主義

[レビュアー] 田中秀臣(上武大学教授)

 たぶん多くの人にとってwoke(ウォーク)という言葉は聞きなれないだろう。日本では本書のように「意識高い系」が訳語で使われている。だが、それだとウォークのニュアンスを拾い切れない。本書でもウォークの由来を米国での黒人たちの公民権運動にまでさかのぼり、そこでこの言葉が社会問題や差別への「意識の覚醒」を意味するものとして利用されてきたことを丁寧に解説している。やがて21世紀になって、ウォークは多様なアイデンティティを有する人たちの「社会正義」を実現する主張や活動を表現する言葉になった。

 だが、本書の題名でもある「ウォーク資本主義」は、そのような「社会正義」を実現する動きではない。むしろ本来のウォークを妨害する大企業を中心にした貪欲な営利活動を意味している。

 ウォークを本来的な民主活動とすれば、ウォーク資本主義は「社会正義」を商売に利用して、経済的な権益を優先することで民主活動を阻害するものになっている。本書は形を変えた新自由主義批判だ。解説に、新自由主義批判を一貫して展開している中野剛志氏が起用されているのもうなずける。ただし新自由主義はいろんな立場の人たちに、批判のためのレッテルとして乱用されていることには注意が必要だ。

 本書では、ウォークを「社会正義」の実現を目指す人たちの合言葉として使っている。他方で、ウォークが社会の分裂をもたらすと考える人もいる。後者の中には、ウォーク自体が新自由主義的であると批判している者もいる。つまり本書の主張に反して、ウォーク資本主義こそ本来のウォークの姿なのだ。ここら辺の議論の整理には時間がかかるだろう。

 日本でウォーク的な活動が目立つケースとしては、LGBT理解増進法をめぐる論争があった。本書の示唆を活かせば、多様な価値観をめぐる民主的な討議には、異論を排除する不寛容な場にしないことが重要だ。

新潮社 週刊新潮
2023年8月10日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク