『性暴力を受けたわたしは、今日もその後を生きています。』
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<書評>『性暴力を受けたわたしは、今日もその後を生きています。』池田鮎美 著
[レビュアー] 林美子(ジャーナリスト)
◆奪われた言葉を取り戻す
空中に放り投げられた新聞紙が一枚一枚バラバラになり、風に吹き飛ばされていく。被害を受けた時の状態を著者はそう表現する。性暴力は著者から言葉を奪い、人として生きるのに必要な社会的文脈を破壊した。奪われた言葉を取り戻し、生きる文脈をつなぎあわせるための血のにじむような作業が本書には詰まっている。
当事者が集うピアサポートグループや家族に支えられ、スピヴァクやアーレントの思想を追い求め、性暴力という「説明できない暴力」を言葉にする。長い道程を内側から励ましたのは、性暴力を受け自死した親友が残した「強くなりたい」という言葉だった。そして著者は、自らの中にある「強さ」に気づく。深い傷つきの中からつかみ取られた強さである。
加害者や、著者の訴えを鼻で笑った検事こそが「弱さ」を抱えているのだろう。「『治療』されるべきは社会」と著者は書く。「同意」の概念を盛り込んだ改正刑法が七月に施行された。社会の「治療」が始まるのはこれからである。
(梨の木舎・2200円)
1981年生まれ。ライター。共著『マスコミ・セクハラ白書』。
◆もう一冊
『性暴力被害の実際』齋藤梓・大竹裕子編著(金剛出版)