主犯格の男と共犯者を突き止めた これぞ渾身の調査報道
[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)
アフガニスタンで「ペシャワール会」(PMS)を母体に人道支援活動を続けていた中村哲さんが、武装集団の襲撃によって亡くなってから4年が過ぎた。
もともと医師として活動を始めた中村さんは、2000年から旱魃に苦しむアフガニスタンで井戸を掘る活動を開始、さらには用水路の建設で土漠の大地を緑豊かな穀倉地に変えた。事業の恩恵を受ける人の数は65万人と言われ、その功績の大きさによって同国の人々から「カカ・ムラド」(ナカムラのおじさん)と親しまれたことはよく知られている。
本書はそんな中村医師に対する襲撃事件の背景を、3年に及ぶ取材で明らかにしようとした朝日新聞記者による渾身の調査報道だ。
パキスタンのイスラマバード支局長も務めた著者は、襲撃の生存者、アフガニスタンの情報当局や捜査関係者、イスラム武装組織パキスタン・タリバン運動(TTP)のメンバーなどから証言を集め、TTPの一味であるアミールという主犯格の男と今なお潜伏を続ける「共犯者」の存在を突き止める。
危険地帯での取材で慎重に確たる情報を見つけ出し、確度不明の多くの証言や状況証拠を重ね合わせることで、霧の中にあった「事実」を確定していく取材力には唸らされるものがあった。灌漑事業の河川をめぐるパキスタンの思惑、アフガニスタンとイスラム武装組織の互恵関係など、一つひとつの点が線としてつながり、襲撃事件の背後の闇に光が当てられる過程に引き込まれる。
また、2021年には米軍の撤退によってタリバンが勢力を強め、アフガニスタン政権は崩壊。著者はその「余波」が現地の人々にもたらした変化も取材し、様々な立場の人々の生の「声」によってアフガニスタンという国の現状も報告する。多角的な取材によって襲撃事件の背景に迫り、事件の「風化」に抗おうとする記者の執念を感じさせる一冊だ。