滅多にアニメを見ないしゲームもやったことないけど、どちらよりも面白いと言える作品だ!【夏休みおすすめ本BEST5】

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  • 吸血鬼ヴァーニー 或いは血の饗宴
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縄田一男「夏休みおすすめ本BEST5」

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

『ひむろ飛脚』は、十八年の歳月を経て完結した加賀藩〈三度飛脚〉シリーズ三部作の完結篇。

 本作のテーマは藩が冬場に作った雪氷を旧暦六月一日に取り出して将軍家に献上したという史実に基づいている。しかしこの年は暖冬で、氷がまったく手に入らない。ようやく見つけた氷には八十名以上の先約がいる。この危機に御用飛脚宿「浅田屋」の面々が立ち上がる。氷を運ぶ男たちの絆、当主・伊兵衛の決断等々、本書を読了してこの感動にすぐピリオドを打てる人はいないだろう。

『イクサガミ 地』は先に刊行された『天』に続く三部作の第二弾。

 主人公をはじめとして多くの登場人物が殺し合いをしながら東京を目差すが、これに兄弟骨肉の相克が絡み、物語はますますヒート・アップ。感動では『ひむろ飛脚』だが、およそ興奮と陶酔という点では本書に如くはなし。

 私はアニメも滅多に見なければゲームもやった事がない。だが、これだけは言える――『イクサガミ』はそのどちらよりも面白い。作者が表現しているのは、ヴィジュアルなエンターテインメントとは違って、読む人それぞれが唯一無二のイマジネーションで楽しむ活字作品の醍醐味だ。頑張れ、今村翔吾!

『二度死んだ女』は、ベックストレーム警部を主人公としたシリーズの四部作完結篇。規格外の警部が担当するのはまさに規格外の事件。殺害された女性のDNAと十二年前に死亡していた女性のDNAが同じであるという怪事件である。

 奇怪な事件の背後に社会性を絡め、主人公の特異性を生かし、大部の一巻に仕上げた腕前はこの作者ならでは。本当に完結してしまうのだろうか。

『吸血鬼ヴァーニー 或いは血の饗宴』第一巻。

 やれ通俗的だの、やれ長過ぎるだの、これまでさんざん文句をつけられ、抄訳しかされなかった伝説の吸血鬼小説が、いよいよ刊行開始となった。

 吸血鬼小説ファンはどれほどこの日を待ち望んだことだろうか。二巻以降の刊行もよろしくお願いします。

『仁義なきヤクザ映画史』は、冒頭で『すばらしき世界』『ヤクザと憲法』等、近作を論じつつも、伊藤大輔の『忠次旅日記』をその原点とする。長谷川伸原作の映像作品を論じる箇所ではなんと『蟹工船』が登場し、権力と昭和維新の底流や、赤報隊を演じた三船敏郎を論じた箇所は嬉しくて涙が出る。

 この一巻は、時代劇のヤクザ映画と、東映仁侠映画、さらには実録ものまでをも内包し、「日本暗殺秘録」に一章をさくのはまさに画期的といえよう。

 いわゆる楽しく読める映画史とは違うが、私は今、二度目を読み返している。

新潮社 週刊新潮
2023年8月17・24日夏季特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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