『温かいテクノロジー』
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『温かいテクノロジー 22世紀への知的冒険』林要著(ライツ社)
[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)
ロボット掃除機ルンバが段差にひっかかりピクピクしていると、「しょうがないな」と抱きかかえ、ペットのように扱う。高齢の父親のそんな姿を見た宮部みゆきさんは2013年、SF短編「さよならの儀式」を書いた。「あんな円盤状のものにでも感情移入するなら、人に近いロボットが誕生してお世話してくれたら、別れはどうなるのか」、それを想像したという。
Pepperの開発に参画した著者は、このヒト型ロボットがうまく動かないさまを応援する人々を見て、18年に家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」を開発した。目が合う、声をかけると振り向く、抱き心地がいい。手間をかけると懐く。特徴はペットに似て、面倒をみる対象ができることで、自分が誰かに必要とされているという満足感が高まり、心を癒やす。高価だが、それが人気らしい。
開発秘話を収めた本書は、人の労働を助け、生産性を高めるという従来型ロボットから発想を転換し、人の心をケアし、温かくするテクノロジーを構想する。なにより、ちょっとした発見を創造に結びつけるしぶとさに瞠目(どうもく)した。