人気俳優の心理劇にプロも高評価 小説は“特急仕上げ”の翻訳が残念
[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)
原作に惚れ込んだブラッド・ピットがプロデューサーと主役を務めて映画化された。映画の日本公開に合わせての出版のため、4人が分担し短期間で翻訳。だが、各々の日本語文章力に差がありすぎて、読みづらい日本語版になってしまった。力作なのに残念。あとがきには「訳文のチェックにあまり時間が取れなかった……機会が与えられれば、さらに完成度を高めていきたい」と。監訳者自ら完成度が低いと認めているものを読まされる読者の身にもなってほしい。
西部劇ファンにとってジェシー・ジェームズといえばお馴染みのアウトロー。1866年から82年にかけ、強盗団を率いて列車や銀行を襲い、少なくとも16人を殺した。にもかかわらず、彼はヒーローとして歌にも歌われる人気者になった。彼の実像と暗殺されるまでの日々、暗殺した者のその後の人生を、当時の新聞記事や文献を徹底的に調べて書き上げた作品で、小説というよりノンフィクションに近い印象だ。
ジェシーは身なりに気をつかい、背広とベストとネクタイ姿で、一見すると物静かな実業家のよう。教養もそれなりにあり、時事問題にも詳しい。その一方で迷信に基づいた知識をひけらかした。穏やかで理性的な面と他人に不安や恐れを感じさせる冷酷で異常な面を持っていた。金持ちから金を奪い貧乏人に分け与える、というイメージが作り上げられ、いつの間にか伝説のヒーローになっていく。
子供の頃からジェシーに憧れていた少年ロバート・フォードは、19歳で念願かないジェシーの手下となるが、熱烈な尊敬の念は、やがて自分はいつか裏切り者として殺されるという強迫観念に変わっていく。そして、賞金のかかったお尋ね者ジェシーを暗殺して、自分が正義のヒーローになることを望むようになる……。
映画は、暗殺に至るまでの両者の心理をじっくりと描き、2時間40分の長編となった。ジェシーを演じたブラッド・ピットはベネチア国際映画祭男優賞を、暗殺者ロバート役のケイシー・アフレックは全米批評家協会賞など数々の助演男優賞を受賞。二人の緊迫感に満ちた演技を堪能すべし。