<書評>『「特攻」のメカニズム』加藤拓 著

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「特攻」のメカニズム

『「特攻」のメカニズム』

著者
加藤拓 [著]
出版社
中日新聞社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784806208075
発売日
2023/07/26
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『「特攻」のメカニズム』加藤拓 著

[レビュアー] 一ノ瀬俊也(埼玉大教授)

◆同調圧力が強いた戦法

 爆弾を積んだ飛行機が乗員もろとも敵艦船に体当たりする航空特攻は、太平洋戦争の生んだ悲劇の象徴として、戦後さまざまな方面から語られてきた。

 本書は、中日新聞の記者である著者が足で集めた数々の証言を通じて、特攻という空前絶後の戦法が行われていった「メカニズム」の解明を試みたものである。登場人物は9回出撃しながら生還した元特攻隊員、特攻隊長の遺児、特攻作戦を指揮した元陸軍司令官とその息子たち、生き残った元特攻隊員とその体験を作品にまとめようと試みながら果たせなかった記録作家など多様である。著者は彼らの証言や回想、手記を通じて、特攻とはいったい何であったのかを解き明かしていく。

 たとえば特攻への参加は「命令」と「志願」のどちらであったのか、という論点がある。十死零生(れいせい)の特攻は「統率の外道」すなわち指揮官たる者が決して部下に命じるべきではない戦法といわれる。そのため特攻への参加はすべて「志願」によるとされたが、実際には軍隊内の同調圧力によって強いられたものであった。飛行機の故障で基地へ引き返した隊員は上官に面罵され、再出撃を強要された。著者はそのような軍上層部の非道、無責任ぶりを糾弾する。

 戦後自衛隊に就職した元特攻隊員は、部隊で軍隊や特攻体験について話しても、幹部でさえ聞く耳を持たなかったと語る。特攻という「戦争の本質」にかかわる重い歴史の教訓がどこまで今の自衛隊に引き継がれているのか、はなはだ心もとなく感じた。

 ところで特攻の「メカニズム」について考察する際、軍上層部と隊員以外に、新聞などのメディアと国民の存在を考慮に入れる必要はないだろうか。軍にとって特攻の「大戦果」は敗勢のなかで数少ない戦意高揚の材料であり、宣伝報道によって作られた国民の熱狂は隊員たちを敵へと向かわせる力の一つになっていた。そうであるなら、メディアが戦争中に特攻をどう報じたのか、メディア自身による検証があってもよいと思うが、いかがだろうか。

(中日新聞社・1650円)

1981年生まれ。本紙記者。平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞。

◆もう一冊

『新装版 あゝ祖国よ 恋人よ きけわだつみのこえ』上原良司著、中島博昭編(信濃毎日新聞社)

中日新聞 東京新聞
2023年9月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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