やっぱりいた、「言葉」じゃなく「絵」で思考する人たち!アインシュタインなどの天才も

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ビジュアル・シンカーの脳

『ビジュアル・シンカーの脳』

著者
テンプル・グランディン [著]/中尾 ゆかり [訳]
出版社
NHK出版
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784140819425
発売日
2023/07/25
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「絵で考える」天才たちとの共存こそ強く豊かな多様性社会だ

[レビュアー] 中野裕子(ライター、インタビュアー)

 年間50組以上にインタビュー取材をしてきた。相手は芸能人、スポーツ選手、作家、企業家、会社員などさまざま。そんななかで、もしかして言葉以外で考えている人がいるのでは、と感じることがあった。「やっぱり」と思わせてくれたのが本書だ。

 世の中には、言葉で考える言語思考者ばかりではなく、絵(画像)で考えている人たちがいるという。それがビジュアル・シンカー(視覚思考者)だ。

 絵で考えるとはどういうことか。ビジュアル・シンカーである著者によると、TikTokのショートムービーを見るように、脳に視覚的なイメージが次から次へと浮かび、視覚の回路を使って情報を処理する。視覚ファイル(記憶)はどこまでも広がるアコーディオンファイルかスマホの写真フォルダーのようなもので、周りからつねに新しい情報が入り分類される。重要か興味深いものは、脳が自動的にその“写真を撮る”。

 ビジュアル・シンカーには、このように絵で考える「物体視覚思考者」と、パターンや抽象的な概念で考える「空間視覚思考者」の二種類がいる。前者はグラフィック・デザイナーや建築家、後者は物理学者やコンピュータープログラマーなどに多い。

 そして、天才にもビジュアル・シンカーがいるのではないか、とする。たとえば、アインシュタインは「私は言葉で考えることはまったくない。思考を構成するレンガの役割をするのは、特定の記号やイメージだ」などと述べていた。まさに……!

 アインシュタインは言葉が遅く、自閉スペクトラム症(ASD)だったのでは、との議論がある。視覚思考はASDの特性であるらしい。著者自身も当事者であり、その啓発活動で世界的な影響力をもつ学者のひとりだ。

 著者は、言語思考者に有利な現在の学校教育では、ビジュアル・シンカーは早くにASDと診断され、適した教育なしに社会から排除されていると憂える。言語思考者には見えないものが見え、気づけないことに気づける特性は社会にとって有用なのに。

 とはいえ、目に見えない脳のこと。我ら“普通”の言語思考者には、肯首しにくい向きもあろう。著者は多くの実例や論文をひきながら、まずは存在に理解を、と説く。なぜなら視覚思考は脳の多様性がもたらすものであり、多様な存在が協力し合う集団こそ強いのだから、と。多様性は本来、認めるか否かではなく存在する。単一との思い込みは息苦しい。多様な社会は言語思考者にとっても柔軟に生きやすいはずだ。

新潮社 週刊新潮
2023年9月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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