『インド―グローバル・サウスの超大国』
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坂の上の雲を目指すインドを見上げる
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
坂の上の雲を目指した時代はとうに過ぎ、今この国は坂の下の糞を目がけて転げ落ちてます――と唱え続けて四半世紀。が、安いニッポン、貧しいニッポンが騒がれるようになっても予言を当てた嬉しさはなく、あるのは虚しさや怒りです。
とはいえ、そんな負の感情ばかり抱えて暮らせるほど強くもない。希望とか光とかを求めてのことなのか、やっぱり四半世紀ほど前から眼の離せなくなった国があって、その名はインド。
21世紀の頭にBRICsの一角として再注目されて以降、経済だけ見ても、乱高下はありつつGDPが7倍、平均株価が16倍という高度成長は、まさに坂の上の雲。8月、月に探査船を着陸させたときにはニッポン負けたと感じたね。
いや、あの国を覆う貧しさや偏狭さ、つまりは坂の下の糞も今なお健在ながら、そういう幅広で底の深い国の実像を掴むのに最適なガイドが、『インド グローバル・サウスの超大国』。カネやら政治やらイデオロギーやらで濁ったり偏ったりのインド論が珍しくないなか、著者の近藤正規は世銀やアジ銀の勤務経験もある研究者で、多面的なインドの姿をストレートかつコンパクトに見せてくれる。
伸びるインドを知りたいアナタにも、老いるニッポンを忘れたい、いや、見つめ直したいアナタにもお薦めするとして、版元には、同じくらい高水準の国別解説書のシリーズ化をお願いしたい。『日本 G7の衰退国』なんて、大ベストセラー間違いなしでっせ。