「奇跡」への道しるべ 『ぐうたら神父の山日誌』伊藤淳著

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ぐうたら神父の山日誌

『ぐうたら神父の山日誌』

著者
伊藤 淳 [著]
出版社
女子パウロ会
ジャンル
哲学・宗教・心理学/キリスト教
ISBN
9784789608350
発売日
2023/05/25
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「奇跡」への道しるべ 『ぐうたら神父の山日誌』伊藤淳著

[レビュアー] 三保谷浩輝

タイトルの「神父」にそぐわない「ぐうたら」の言葉に目を留めた。思った通り、著者はかつて作家・遠藤周作のエッセー「ぐうたら」シリーズなどの愛読者で、「ゲラゲラ笑い転げては、つらい勉強の憂さを晴らし」ていた。

だが、ぐうたらに笑い転げていただけではなかった。キリスト教と無縁な家庭で生まれ育ち、自分ではキリスト教の学校とも知らずカトリックの中高一貫校に進学。そんな「ぼーっとした子」が、遠藤の小説『イエスの生涯』をきっかけに、「わたしのような罪深いダメダメな者にこそ、キリストは愛を注ごうとしておられる」と〝同伴者イエス〟に魅了されたという。

一方、中高時代に目覚めた登山は大学、企業勤務などを経てカトリックの神父となっても続いた。本書では「山で神と出会い、山で導かれて神父にまでなった奇跡」への道しるべともいえる国内外17山と、山を通じて出会った人々への思いをつづる。

2度目の挑戦で成功した登頂と晴天のすばらしい眺望に「神からのご褒美」を感じた富士山。初日の出に「不可視なものを探し求め」る高校山岳部指導者のドイツ人神父の横顔に、神父らしさを感じた丹沢。スキーで滑降中の遭難の危機を「三位一体の神秘を目撃」したかのような体験で救われたマッターホルン…。

後半はシナイ山、オリーブ山、ゴルゴタの丘などイスラエル巡礼記でもあるが、軽妙な筆致で珍道中の趣も。シナイ山では、バスの車窓のかなたに見える遊牧民のテントの明かりに「郷愁とともに安堵」を感じる。その描写に映画「男はつらいよ」で、夜汽車から見える遠くの明かりに「あんな所にも人が暮らしているか」と涙するという寅さんのセリフを思い出した。

山行は思索の旅と著者は書く。著者と同じ62歳の評者もかつて「ぐうたら」シリーズを読み、山歩きに勤しみながら、今もぐうたらの日々。そんな思索の足りない身にも味わい深い文章でそっと寄り添ってくれる一冊だ。(女子パウロ会・1650円)

評・三保谷浩輝(文化部)

産経新聞
2023年10月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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