『SOAKED IN ASIA アジアに浸る』
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だってきれいでしょ?僕たち
[レビュアー] 川本三郎(評論家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「化粧」です
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女性だけではない。男性も化粧をする。タイのバンコクでは男子高校生たちが堂々と化粧する。
高樹のぶ子の『アジアに浸る』(二〇一一年)。アジアに魅せられた作家は五年の歳月をかけてアジア十カ国を旅する。
フィリピン、ベトナム、台湾、中国など。観光旅行ではない。市井の人々に会い、話を聞く。
マニラでは鉄道線路沿いのスラムのようなところで暮す子供たち。ベトナムでは戦争に従軍し、戦後、後遺症に悩まされている女性。上海では高級料理店で働く地方からの出稼ぎの少女。
そしてバンコク。当時世界でもっとも性転換手術が行なわれていて、性同一性障害者たちにとって救済の町になっているという。
高樹さんは、「心は女性だが身体は男性」という二十一歳の若者の性転換手術にも立ち会う。
バンコクの商業高校に取材に行く。ちょうど下校時、化粧をした美少年が何人かいて思わず見とれてしまう。授業が終ってトイレで化粧をするという。
学校ではいちおう化粧を禁止しているが、それほど厳しいものではない。
高樹さんは、思い切ってなぜ化粧するのかと質問をする。答えは簡単。
「だってきれいでしょ? 僕たち」
なるほど化粧した少年のカラー写真が添えられているが確かに可愛い。
彼らは「なぜ男の子がお化粧をして悪いの?」と問い返してくる。高樹さんは今も答えが分からないという。