『リンカーン・ハイウェイ』
書籍情報:openBD
『リンカーン・ハイウェイ』エイモア・トールズ著
[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)
少年4人 人生変える旅
たった10日間、けれど少年たちの人生はその10日で大きく変わる。
事故により人を殺(あや)め、更生施設に入っていたエメット。母親は8年前に出奔し、父親は病死した。父親の借金の形に住む家を失ったエメットは、弟のビリーと一緒に愛車スチュードベーカーに乗り込み、新しい土地、新しい人生を目指す。
だけれど、エメットを追って更生施設を抜け出してきたダチェスとウーリーが現れ、計画は大きくズレ始める。4人で旅を始めるはずが、途中でダチェスが車を盗み、ウーリーと共に姿を消した。エメットは愛車を取り戻すために2人を追いかけ、ニューヨークへ赴くこととなる。
エメットたちが住んでいたのはアメリカのほぼ真ん中に位置するネブラスカ。ここから南下してテキサスを目指すはずが、母親が残した絵はがきを辿(たど)って西海岸のサンフランシスコへ。かと思えば東海岸のニューヨークへ。ニューヨークからサンフランシスコを結ぶリンカーン・ハイウェイ、約5400キロメートルの旅路は何とも壮大な東奔西走。
寡黙で真面目、正義感の強いエメット。とても頭が良く、英雄譚(たん)を描いた本をこよなく愛する弟のビリー。旅回りの俳優の子供として生まれ捨てられたダチェスは、人の心を掴(つか)むのがうまいが衝動的で、時に倫理観がない。恵まれた家庭に育ったものの、独得の頭の働きをするウーリー。偽牧師や、ビリーを助ける黒人のユリシーズ、エメットたちの幼馴染(おさななじ)みで旧弊な父親や田舎の考え方にうんざりしているサリー、ビリーの愛読書の著者まで登場し、様々な視点から描かれる章が多面的に、多層的に物語に深みを与えていく。
旅はやがて終わる。4人はそれぞれの帰着を迎える。求めるものは手に入ったのか。あなたもこの旅に同行した5人目として、ぜひ終わりを見届けてほしい。宇佐川晶子訳。(早川書房、4070円)