『抜け首伝説の殺人』
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地元四日市が少しでも話題になれば……
三重県と聞いてみなさまは何を思い浮かべるでしょうか。多くの方は伊勢神宮や、サミットの開かれた伊勢志摩(しま)など県南部が出てくるでしょうし、わたしもそれが普通だと思います。
わたしが生まれ育ったのは三重県北部にある四日市という街です。県内ではもっとも人口が多いため、わたしは『三重の新宿』と公言しているのですが、言うたびにすべっています。残念ながら四日市で有名なものと言えば四大公害病に数えられる喘息くらいで、観光資源にも乏しいのが実情です。
本作ではそんな四日市市を舞台に、首が夜毎に空を舞うという噂話を基にしてミステリーを書きました。四日市には大入道(おにゆうどう)という、可愛さを完全に投げ捨てたからくり山車があり、こちらに着想を得たものとなります。
現在の四日市は石油コンビナートを中心とする産業都市ですが、江戸時代は東海道の宿場町として栄えておりました。東西を行き交う人々から多様な価値観を取り入れ、先述の大入道のように独自の文化が生まれたようです。
ちょうどこの大入道の山車が制作されていた頃、三重県北中部では『間歩(まぶ)』や『間風(まんぼ)』と呼ばれる灌漑(かんがい)用の横穴式井戸が掘られており、本作でも江戸時代のパートにこちらのエピソードを盛り込みました。
また、四日市は地下水が豊富な街でもあり、こちらの地下水を使った酒造業も盛んです。本作では四日市市の桜地区にある酒造を舞台に据えました。
名産や観光資源に乏しい地方都市ではありますが、それでも地元を舞台に小説を書きたかったため、わたしの通った高校があり、土地カンのあった桜地区を選んでおります。
前作『ヘパイストスの侍女』ではAIや先進技術を用いたITミステリーを執筆いたしましたが、本作ではからくり人形師を主人公に据えた王道のミステリーに仕上がったと思いますので、ぜひ読んでいただけましたら幸いです。
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白木健嗣(しらき・けんじ)
1989年生まれ。日本マイクロソフト株式会社勤務。2021年、「ヘパイストスの侍女」で島田荘司選第14回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞。’22年に同作でデビュー。