失われた鳥を求めて夢中になった二人 絶滅と進化の知的探求小説

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ドードー鳥と孤独鳥

『ドードー鳥と孤独鳥』

著者
川端裕人 [著]
出版社
国書刊行会
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784336075192
発売日
2023/09/19
価格
2,970円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

失われた鳥を求めて夢中になった二人 絶滅と進化の知的探求小説

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 人間はなぜ絶滅動物に惹かれるのか? 望んでも会えないから? それとも(近代の多くの例で)人類が絶滅に加担した罪悪感のせい? 数十億羽いたリョコウバトは、人間に狩られ続け、ほんの数十年で姿を消した。コンブだけを食べる“体長十メートルにもおよぶ優しい巨大海獣”ステラーカイギュウは、“人類が発見してわずか二十七年で絶滅してしまった”(本書より)。

 語り手のタマキ(望月環)は、小学4年の春、父と一緒に引っ越した房総半島南部の町の小学校で、ケイナちゃん(佐川景那)と出会う。緑深い百々谷を二人で歩き、ヤゴやアサギマダラを観察する日々。絶滅動物の図鑑に夢中になった二人は、とりわけ二種類の飛べない鳥に魅せられる。いわく、“ドードー鳥と孤独鳥(ソリテア)は、わたしたちに似ている”。

 二人の夏を描く第一章は、アーサー・ランサムの少年小説を思わせる自然の肌触りと魅惑に満ちている。

 しかし、秋になってケイナは転校し、二人は離れ離れに。長じて大手新聞社の科学記者になったタマキが、ケイナと再会したのは、それから二十年近くあとのこと。獣医の学位を得たのち分子生物学方面に進んだケイナは、カリフォルニア州のラボでゲノム編集済みの始原生殖細胞を移植する実験に携わっていた。この技術を応用すれば、“脱絶滅”への道が開ける。しかし、生息環境から切り離して絶滅種だけを復活させることは果たして正しいのか?

 一方、ドードー鳥が江戸時代の長崎に来ていたことを知ったタマキは、その消息を追う旅へと乗り出す……。

 語り手がジャーナリストなので、小説は半分ノンフィクションのように、ドードー鳥と孤独鳥とその他の絶滅動物をめぐるさまざまな歴史的エピソードや科学的な知見を紹介していく。要所要所に、それらの動物たちを描いた往時の図版や骨の写真が何十枚も挿入され、物語に興趣を添える。函入りの造本も美しい。

新潮社 週刊新潮
2023年11月16日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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