朝ドラ「ブギウギ」モデルの「笠置シヅ子」が活躍した“衝動”の日本エンタメ黄金時代とは

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笠置シヅ子ブギウギ伝説

『笠置シヅ子ブギウギ伝説』

著者
佐藤 利明 [著]
出版社
興陽館
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784877233143
発売日
2023/09/26
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

戦前の「エンタメ黄金時代」にも 人々を魅了したブギの女王

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 NHK連続テレビ小説(朝ドラ)の主人公には二つのタイプがある。一つは架空の人物で、もう一つが実在の人物をモデルにしたものだ。最近はなぜか後者が続いている。前作の『らんまん』は植物学者の牧野富太郎だったし、現在放送中の『ブギウギ』は歌手の笠置シヅ子だ。

 笠置が生まれたのは一九一四(大正三)年。十三歳で現在のOSK(日本歌劇団)の前身、松竹楽劇部に入団する。やがて作曲家の服部良一とのコンビで多くのヒット曲を生み出し、戦後は『東京ブギウギ』などで「ブギの女王」と呼ばれた。

 こうした実録系朝ドラの場合、書店にはモデルとなった人物に関する書籍が数多く並ぶ。この評伝もその一冊だが、著者は『ブギウギ伝説 笠置シヅ子の世界』をCD化した「オトナの歌謡曲プロデューサー」であり、『石原裕次郎 昭和太陽伝』などを書いてきた「娯楽映画研究家」だ。音楽と映画を軸とした「昭和のエンタテインメント史」の流れの中で、笠置がどのような存在だったのかを知ることが出来る。また本書で驚かされるのは、戦前・戦中の雰囲気だ。軍国主義の台頭もあって、つい暗いイメージを持ってしまうが、それは一面的だ。たとえば盧溝橋事件が起きた一九三七(昭和十二)年は、日本のエンタメの「黄金時代」だったと著者は言う。

 エノケンこと榎本健一やロッパこと古川緑波、漫才の横山エンタツと花菱アチャコなどの主演映画が続々と製作され、そこには最新のジャズソングやブロードウェイのミュージカル・ナンバーが積極的に取り入れられていた。笠置が頭角を現していくのは、そういう時代だったのだ。

 服部が書いて笠置が歌う「ブギウギ」は、それ以前の情緒的な流行歌ではなかった。情緒よりも衝動。圧倒的なリズムの楽しさがあった。二人の天才が創造した「元祖・リズム歌謡」は、今も聴く者の心をズキズキ、ワクワクさせてくれる。

新潮社 週刊新潮
2023年11月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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