『ルポ 歌舞伎町の路上売春』
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刹那を生きる女性のリアルで小さな声
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
この世から売春がなくなることはない。履歴書なしで現金を稼ぎたい人がいて、需要もある。眠らない町といわれる新宿歌舞伎町では、ここ数年、ごく若い女性が「立ちんぼ」をする姿が目立つようになったという。10代も珍しくない。たったひとりで客をひき、ときにはトラブルに巻き込まれ、ときには体をこわし、ときには警察に逮捕される。そんなリスクの高い生きかたをしている女性とは、どんな人たちなのか。春増翔太『ルポ 歌舞伎町の路上売春』は、彼女たちの言い分に耳を傾け、背景に目をこらしたルポである。
歌舞伎町での売春といえば、お決まりのストーリーが想像される。ホスト、クスリ、借金、風俗店。しかし著者は、路上に立つ子たちのストーリーを、もっとほの暗い場所、もっと小さな声に見出している。性にだけ値段がつく世界とは、人に話したくない過去やもっている障害などを明かさなくてよい世界でもある。そこに救われる人もいるのだ。
しかし未来に希望がなければ、人は刹那に生きるしかない。彼女たちは、今夜泊まるネットカフェの支払いのため恐ろしく安い値段で性行為に応じる。得た金はすぐに出ていく。出自を問わないやさしい町だった場所は、年を経るごとに自分に冷たくなっていく。そのとき彼女たちはなにを思い、どこに帰ろうとするのだろう。「未来」をあてにすることがこんなにも難しい社会に、いまわれわれは生きている。