『焼き芋とドーナツ』湯澤規子著

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焼き芋とドーナツ 日米シスターフッド交流秘史

『焼き芋とドーナツ 日米シスターフッド交流秘史』

著者
湯澤 規子 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784041126493
発売日
2023/09/28
価格
2,420円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『焼き芋とドーナツ』湯澤規子著

[レビュアー] 鵜飼哲夫(読売新聞編集委員)

 大正期の労働現場の過酷さを描く古典『女工哀史』には哀(かな)しい“続編”があった。細井和喜蔵が描く女性のほとんどが固有名を奪われ、共作者と言うべき女性は細井と事実婚だったため印税をもらえなかった。

 その女工高井としをが半世紀後、自伝『わたしの「女工哀史」』を出したのは、織物工場で働きながら短大で学ぶ女学生による聞き取りがきっかけだった。それは塀に囲まれた工場労働に悩み、葛藤しつつも、仲間と寄宿舎で食べることを楽しみ、ささやかな抵抗をする姿を語るものだった。

 本書はこの事例を手はじめに、産業革命下の日本、津田梅子ら先進的女性が影響を受けた米国の女性労働者、研究者、『若草物語』の作家オルコットらの「わたし」の暮らしと肉声を、顔が見えるように描く学術的な読み物である。

 男の語る勇壮なヒストリーが多い中で、働きながら家事、育児という日常茶飯に追われる女性を描く歴史には日が当たらず、埋没しがちだ。それを逆手に、間食(おやつ)という茶飯に目をつけ、日米女性の知られざる連帯を探る切り口は説得力があり、腹に落ちた。(KADOKAWA、2420円)

読売新聞
2023年12月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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