イタリア人のお酒のシメはパスタ!貧乏メシだが本当においしい「ペペロンチーノ」

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貧乏ピッツァ

『貧乏ピッツァ』

著者
ヤマザキマリ [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/家事
ISBN
9784106110184
発売日
2023/11/17
価格
902円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

イタリア人のお酒のシメはパスタ!貧乏メシだが本当においしい「ペペロンチーノ」

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

貧乏ピッツァ』(ヤマザキマリ 著、新潮新書)の著者は、イタリアで暮らしていたというだけで「あら、素敵、うらやましい」という反応を示されることが少なくなかったのだそうです。

お金のない学生だった当人にとってのイタリアは、「一生分の貧乏と社会で味わうべき辛酸を体験させられた国」

ところが日本の裕福な方々の目には、「素敵」で「うらやましい」国だと映っていたということ。そこに大きな齟齬が生じていたわけです。

数あるイタリアンの中でも当時評判だった高級店へ友人に誘われて行った時のことだ。

メニューを開くと、私が貧乏時代に毎日食らっていた、“素うどん”ならぬオリーブオイルにニンニクと鷹の爪と塩コショウだけで味付けした“素パスタ”が、千五百円で振る舞われている。

「ありえない……」と心中の思いを隠すことのできない私は、目の前で美味しそうにスパゲッティを食べている友人に向かって吐露していた。

「これはおそらくイタリアでも最もコストの掛からない一品で、原価はおそらく百円を切っていると思う。」(10〜11ページより)

そこから話が盛り上がり、日本における表層的なイメージとは異なる“イタリアの貧乏メシ”について語り続けていたところ、隣のテーブルから「どうしてもあなたの声が耳に入ってきてしまうので、すっかり聞いてしまいましたが、その話が本当ならば、ぜひテレビで“簡易ローコストイタリアン”を紹介してもらえないでしょうか」と声をかけられたのだとか。

その人は(当時暮らしていた)札幌のテレビ局のプロデューサーだったため、それがきっかけとなってテレビでイタリア料理コーナーを担当することになったというのです。

なんとも不思議な話ですが、そこで語られたであろうことは、きっと「食」に関する思いを綴った本書の内容にもつながっているはず。

本当においしい「アーリオ・オリオ・エ・ペペロンチーノ」とは?

ところで、いよいよ年末です。コロナが一段落したタイミングでもあり、忘年会も増えつつあるのではないでしょうか?

となると、飲んだあとに「シメのラーメン」が食べたくなったりするもの。なかなか危険なトラップですが、それは日本に限った話ではないようです。イタリアでも、似たようなことがあったというのです。

かつて入り浸っていたフィレンツェの芸術家たちのサロンでは、夜な夜なワインやグラッパやウイスキーのグラスを手に、創作で生計を立てている方々が顔を赤くしながら議論を繰り広げられていたそう。そして、そんなときにも、しばしば「シメの一品」が出てきたようで…。

夜半を回ると、誰ともなくサロンの奥にある台所へ姿を消し、十五分後くらいに大きな皿に盛った「アーリオ・オリオ・エ・ペペロンチーノ」を抱えて戻ってくる。

するとその場にいた酔っ払いの芸術家たちは皆歓喜し、小皿にとり分けて、ニンニクとオリーブオイルの香りに包まれたそのシンプルなスパゲッティをしみじみ旨そうにいただくのだが、麺によって失われた糖質を摂取するという意味では、シメのラーメンならぬ「シメのパスタ」とでも言うところか。(176ページより)

ちなみに前述の「イタリアンの高級店で出てきた1500円の“素パスタ”こそが、まさに「アーリオ・オリオ・エ・ペペロンチーノ」

たしかに高級店で上品にいただくよりも、こうして気の合った仲間たちとワイワイ食べるほうがはるかにおいしそうではあります。(176ページより)

世界各国の「飲んだあとのシメ」料理

なお、郊外にあるディスコやクラブなどの娯楽施設の外では、「ポルケッタ」という豚の丸焼きのスライスをパンに挟んだパニーノを売るキッチンカーが、夜遅くまで停車していたといいます。

つまりはそれもまた、飲みすぎた人のためのシメの一品料理。ポルケッタにもアルコールを分解するイノシン酸が入っているためだろうかと著者は推測していますが、いずれにしても、かじりつけば肉汁がちょっとパン生地にしみ込んで、これもまた「しみじみおいしい」のだそう。

夜中に食べるには高カロリーかもしれませんが、ラーメンと同じように「ま、いいか」ということになってしまいそうです。それに著者が調べてみたところ、世界各国の「飲んだあとのシメ」料理は、どれもこれもなかなかパンチが効いている様子。

アメリカのピッツァ、スコットランドではフライドポテトにフライドチキン、トルコやイギリスではケバブ、アイルランドではフィッシュ&チップス、チェコではチーズの揚げ物、中国では串焼きや小籠包、ドイツではカレー粉とケチャップで味付けしたソーセージ、メキシコのタコス、カナダではフライドポテトにチーズのソースをかけたもの、タイではパッタイという麺料理、ギリシャでは蜂蜜をかけた揚げ菓子。

飲酒で失われた糖質を求める、世界中の肝臓の猛々しさたるや半端ない。とにかく、飲んだあとにスッキリしたいのなら脂質に糖質、というのが世界共通なのはよくわかった。(177ページより)

著者は以前、カーニバルの時期に訪れたブラジル北東部の街で、「カイピリンニャ」というサトウキビベースの強いお酒が入った飲み物を何杯もおかわりしてしまったことがあったのだそうです。

その際に現地の知人が屋台でおごってくれたのが、豆と玉ねぎを練った生地に海鮮を詰め込んだ揚げパン。「アカラジェ」という名のそれは、食感も味も辛さも脂っこさも、とことん強烈だったといいます。

決して体には良いとは言えないのは見た目からもありありとわかるのに、あれくらいのレベルでなければ、飲みすぎてしまった自分には十分じゃないのだ。(177ページより)

だからこそ、シメのラーメンにも、ポルケッタにも、アカラジェにも、「飲みすぎたの? ほんとに仕方がないわねえ、まあいいからこれでも食べていきなさい」と失態をたしなめつつも温かく見守ってくれるような魅力があると著者はいいます。

なかなかうまい表現ではないでしょうか?

だから、まあ、時々の飲みすぎも前向きな人生を送るためには必要なことなのだ。と、私は勝手に思っている。(178ページより)

まさに同感。とはいえ、年末だからこそ飲みすぎには気をつけないといけませんね。(176ページより)

貧乏だからといって、まずいものしか食べられない、ということはない。味覚というのは想像力の力を借りさえすれば、いかようにでも美味しさという幸福感を与えてくれる。(「あとがき」より)

こうした考え方に基づく本書は、食べることの楽しさや大切さを実感させてくれることでしょう。この週末、お酒や好みのドリンクなどを楽しみながらページをめくってみてはいかがでしょうか?

Source: 新潮新書

メディアジーン lifehacker
2023年12月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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