『「よく見る人」と「よく聴く人」』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『「よく見る人」と「よく聴く人」』広瀬浩二郎/相良啓子著
[レビュアー] 尾崎世界観(ミュージシャン・作家)
立ちはだかる困難を合気道のように受け流す「見えていない」はずの広瀬さんと、目の前の壁を根気強く乗り越えながら正面突破する「聴こえていない」はずの相良さん。それぞれの視点で交互に綴(つづ)られる学びの記録はどれも興味深く、我々がつい障害者に抱いてしまいがちな「できない」を強く揺さぶる。
便利な機能と引き換えに、何かをスキップする機会が増えた。目や耳から入ってくる情報に埋もれてしまう感触と音、多様なコミュニケーションツールのせいで薄まっていく伝える喜びや受け取る喜び、学ぶことに救われている2人の実体験は、大切なことを思い出させてくれる。そして、他者との繋(つな)がりが不可欠である2人のことを知るにつれて「コミュ障」という言葉がつくづく贅沢(ぜいたく)に感じられる。点字でポルノを読んだり、手話にも方言があったり、知れば知るほど親近感がわく。どこまで深く言葉を使いこなせているか。本当に大切な音が聴こえているか。ステージから一体何が見えているか。ミュージシャンとしての自分に、鋭い問いを突きつけられているようにも感じた。(岩波ジュニア新書、1034円)