小5で親に捨てられ、父の顔を知らない二人の「女子プロレスラー」がタッグを組んだ「クラッシュ・ギャルズ」を辿る

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  • 1985年のクラッシュ・ギャルズ
  • プロレス少女伝説
  • 女子をこじらせて

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時代を走り抜けた二人の女子プロレスラーと並走した二人のライターと

[レビュアー] 北村浩子(フリーアナウンサー・ライター)

 1980年代半ばに絶大な人気を誇った女子プロレスラー、長与千種とライオネス飛鳥のタッグチーム、クラッシュ・ギャルズ。ファンの視点も採り入れて二人の人生を辿った評伝、柳澤健『1985年のクラッシュ・ギャルズ』が復刊された。咆哮、逆立つ髪、肉体が叩きつけられる床の弾力音、それらが束になって熱を放ち、読者の身体を火照らせる。

 小学5年で両親に捨てられた千種と、父の顔を知らない飛鳥。80年に全日本女子プロレス(全女)に入門した二人の初期の歩みは対照的だった。飛鳥はトップを走り、千種は周回遅れ。負け犬呼ばわりされ千種は常に失意の中にいた。

 そんな彼女にある時、全日本シングル王座挑戦の話が持ちこまれる。相手はエリートの飛鳥。全女を辞めようと考えていた千種は対戦前夜、飛鳥を呼び出してこう告げる。「最後の試合くらいは、決まりごとを忘れてやってみたい」「すべてをぶつけあう試合がしたい」。

 強いだけで面白味がない。そう言われ続けていた飛鳥は千種の提案を受け入れる。それぞれの思いをリングで表現した二人はその年、クラッシュ・ギャルズを結成。スーパーアイドルとして疾走するが─。

 巻末には、以前文春文庫から出ていた時のあとがき「井田真木子さんのこと」と、この復刊版のためのあとがき「雨宮まみさんのこと」が置かれている。どちらも若くして亡くなってしまったが、女子プロレスの、狂気を包含した悪魔的な魅力を知っていた書き手たちだ。井田真木子『プロレス少女伝説』(文春文庫)は、柔道出身の神取しのぶ、中国帰国子女のレスラー天田麗文、アメリカ人女子レスラーとして初めて日本の興行団体と年間契約を結んだデブラ・アン・ミシェリーへのロングインタビューを収めた一冊。3人の口調が実に生き生きと再現されていて、のめり込むように読まされてしまう。雨宮まみの文庫は現在、劣等感との闘いを綴ったデビューエッセイ『女子をこじらせて』(幻冬舎文庫)のみだが、他作品も文庫化されることを願ってやまない。

新潮社 週刊新潮
2024年2月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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