「中学受験後」に極度の成績不振、不登校、摂食障害、退学になる子供たち…「親」へ伝えたいメッセージとは

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命懸けで親を救済しようとする子どもたちのドキュメンタリー

[レビュアー] おおたとしまさ(おおた・としまさ)


中学受験をした家族のその後を追う

おおたとしまさ・評『中学受験をして本当によかったのか? 10年後に後悔しない親の心得』

 中学受験は単なる通過点でしかない――。

 大人なら誰でもわかっているはずなのに、いざ渦中のひととなると忘れてしまうことを、豊富な実例を挙げながら読者の心に刻みつける。要するに、目先の偏差値に振り回されなさるなよと警告する、中学受験の親のための本である。

 中学受験を終えてからもう何年も経った社会人や大学生やその家族が中学受験体験とその後の人生を振り返り、たくさんの「たられば」が語られる。

 ダメ元で受けたチャレンジ校に合格したのに不登校になり、退学を選択せざるを得なかったケースもあれば、第五志望に進学したのにそこでたくさんの素敵な友人と教師と出会い、輝かしい人生をつかみ取ったエピソードもある。

 それを著者が類型化、分析、検証し、これから中学受験をする子の保護者に戒めとしてもらうことを目的として書かれている。――表向きは。

 しかし実際のところこの本は、命懸けで親を救済しようとする子どもたちのドキュメンタリーなのである。

 競争社会の強迫観念に囚われてしまった親の人生を、親自身の手に奪還するために、子どもはときに身を張り、ときに人生の回り道をもいとわず、奮闘する。

「ありのままの私を見て」。そのメッセージが親の心に届くまで、極度の成績不振、不登校、摂食障害、起立性調節障害、退学……など、さまざまな形で訴えかける。

「こんな成績でも私のことを愛してくれますか?」「名門私立中学の生徒ではなくなったとしても自慢のわが子と思ってくれますか?」と子どもたちは問うている。これらの「不調」は実は、一種の試し行動ともいえるのである。

 場合によっては「生きていてさえくれれば」という状況まで経験して、「ああ、そうか。この子の人生はこの子のものなんだ!」。そんな当たり前のことにようやく気づけたときに、親も自分の人生を取り戻す。自分も自分の人生を生きなければいけないことを思い出す。

 長い旅路の末にようやくそこまで至った親子が、仲良く酒を酌み交わすシーンが出てくる。その酒はきっと、ただ真っ直ぐ最短距離を進んできたのでは経験できない味がするはずだ。

 波瀾万丈いろいろあったようだけれど、この本に出てくる登場人物すべての人生がかけがえのないものであると理解できたのなら、中学受験に挑戦しても、もう怖いものはないはずだ。

新潮社 週刊新潮
2024年4月25日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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