2016年を書評で振り返る ポケモンGO、小池旋風、天皇の生前退位問題、「君の名は。」からトランプショックまで![後編]

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 2016年の出来事を書評で振り返るこの企画。1月から6月を振り返った前編に引き続き、今回は2016年後半を振り返ります。

■7月19日 第155回芥川賞に『コンビニ人間』直木賞に『海の見える理髪店』

 日本文学振興会は第155回芥川龍之介賞に村田沙耶香氏の『コンビニ人間』を選出しました。直木三十五賞には荻原浩氏『海の見える理髪店』を選出しました。村田氏は初ノミネートで受賞、萩原氏は5度目の候補で受賞となりました。『コンビニ人間』は好調な売れ行きをみせ、テレビ朝日のバラエティ番組「アメトーーク!」でも取り上げられ、11月には50万部に到達しました。村田氏の特異なキャラクターにも注目が集まりました。

コンビニ人間

〈『コンビニ人間』レビュー〉
「ひっそり異議を唱える芥川賞受賞作『コンビニ人間』」レビュアー:佐久間文子(文芸ジャーナリスト)

(略)子どものころから人としてあるべきふるまいかた、処世のたぐいや道徳的判断が身につかず、突飛な行動をとっては社会の「異物」として周囲を慌てさせてきた恵子にとって、あらかじめマニュアルが用意されたコンビニは、初めて「世界の部品」になることができた場所だった。
https://www.bookbang.jp/review/article/517103

―――

「異質な自分をめぐって」レビュアー:長島有里枝(写真家)
社会生活のあらゆる場で、自分が「異質」だと思い知らされているのに、自分のなにが「悪い」のかはいつまでたってもわからない。芥川賞に決まったこの作品の主人公を通して、見えてくるのは自分にも馴染(なじ)み深い、そんな世界だ。
https://www.bookbang.jp/review/article/516453

■7月22日 スマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」日本での配信を開始

 世界的に人気のスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」の配信が日本でもはじまりました。現実世界を歩きポケモンを捕まえるという新しい形のゲームに子供から大人まで夢中になり、社会現象となりました。一方で歩きスマホの問題や、深夜にプレイヤーが特定の場所に集る、立ち入り禁止の場所でのプレイなどこれまでにはみられなかった問題も生じました。ゲーム史を振り返り、現実社会にゲームが与えた影響について綴った一冊と、サイバー空間での犯罪と現実を結びつけたミステリ小説の書評がこちらになります。

現代ゲーム全史

〈『現代ゲーム全史』レビュー〉
【聞きたい。】中川大地さん「壮大な現代社会・文化論」インタビュアー:産経新聞社

「デジタルゲームは人間のライフスタイルを変え、社会、文化、文明を形づくってきたのではないか。音楽、文芸、映画と同等の芸術として批評されてもいいはずだし、IT社会を支える大事なインフラとして改めて語る価値が出てきた」
https://www.bookbang.jp/review/article/519614

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〈『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』/『原発サイバートラップ』レビュー〉
レビュアー:吉田大助(ライター)

ポケモンGO旋風によって明らかになったのは、今や現実空間とサイバー空間の境界線は失われ、重なり合っているという事実だ。この現実認識をもとに物語を生み出すならば、サイバー空間を熟知している人間がふさわしい。知識の問題ではない。視点の問題だ。
https://www.bookbang.jp/review/article/521491

■7月26日 相模原市の障害者施設で19人刺殺

 神奈川県相模原市の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」に刃物を持った男が侵入し、19人を殺害。戦後最悪規模の殺人事件となりました。歪んだ優生思想を基に障害者を殺めた男は、以前から精神病院へ措置入院をしており、また大島理森衆議院議長に犯行を予告するような手紙を送っており、男の凶行を止める事はできなかったのか、大きな議論が巻き起こりました。優生思想や差別意識を小説で描いた作家の絶筆と、知的障害者の自立支援に生じるズレに警鐘を鳴らした一冊を紹介します。

狩りの時代

〈『狩りの時代』レビュー〉
「差別意識に正面から挑む」レビュアー:与那覇恵子(東洋英和女学院大教授・近現代日本文学)

人はなぜ差別をするのだろうか。美や力に魅了される人間の意識や、他者より抜きんでたいという欲望そのものに差別は内在しているのだろうか。絶筆となった本作で、津島佑子はこの根源的な問いに真正面から挑んでいる。
https://www.bookbang.jp/review/article/517893

ズレてる支援! 知的障害/自閉の人たちの自立生活と重度訪問介護の対象拡

〈『ズレてる支援! 知的障害/自閉の人たちの自立生活と重度訪問介護の対象拡大』レビュー〉
「わからない、から始める」レビュアー:渡辺一史(ノンフィクションライター)

重度の知的障害や自閉症がある人たちは、一般に「意思能力が不十分」とされ、施設や親元ではなく地域で自立して生活するのはきわめて困難であると思われがちだ。
https://www.bookbang.jp/review/article/506410

■7月31日 東京都知事選で小池百合子氏が当選

 舛添要一氏の辞任を受け行われた東京都知事選で元防衛相の小池百合子氏が当選しました。小池氏は就任後早速、築地市場の豊洲への移転の延期を決定し東京五輪の経費削減にも乗り出しました。小池氏は選挙では2位に100万票以上の大差をつけ勝利し、都民から圧倒的な支持を得ています。その言葉の影響力は大きく、小池氏が言及した書籍はたちまちベストセラーとなる現象が起きています。

「空気」の研究

「豊洲市場問題を生んだ『空気』とは 小池百合子都知事が言及した一冊が話題に」
30日小池百合子都知事が定例記者会見のなかで取り上げた『「空気」の研究』。豊洲市場問題について記者からの「日本では責任の所在は誰にあるのかわからないまま仕事が進む、個々人が責任をもった組織にするためにはどうしたらよいでしょう」との質問に答えるなかで触れられた。
https://www.bookbang.jp/article/518943

失敗の本質―日本軍の組織論的研究

「『都庁は敗戦するわけにいきません』小池百合子都知事の座右の書『失敗の本質』が注目を集める」
東京都の小池百合子知事が9月23日の記者会見で「座右の書」として取り上げ注目が集まった。
https://www.bookbang.jp/article/519513

■8月8日 天皇陛下が退位の意向を示唆

 天皇陛下が国民に向けたビデオメッセージで、体力の衰えから公務の遂行が難しいと発言され、生前退位の意向を示唆されました。これを受け政府は有識者会議を設置し退位の具体的な検討に入りました。近世では大正天皇の健康がすぐれない際、皇太子(のちの昭和天皇)が摂政となり公務を執り行うという例もありました。また昭和天皇も太平洋戦争後に退位を考えられたことがあるそうです。今後どのようなかたちになるにせよ、我々は天皇陛下の公務と生活について詳しく知っておく必要があります。それには皇室の日常生活も含めた実情を記した以下の書籍が役に立つでしょう。

天皇陛下の私生活

〈『天皇陛下の私生活』レビュー〉
「44歳だった『現人神』の日常生活」レビュアー:山村杳樹(ライター)

天皇ほど公人の最たるものはない。しかも、この公人ほどプライバシーが秘匿されている存在もない。本書は、その天皇の私生活を史料と証言に基づき細部にわたり描き出そうと試みたノンフィクションである。
https://www.bookbang.jp/review/article/509165

昭和天皇 第七部 独立回復(完結篇)

〈『昭和天皇 第七部 独立回復(完結篇)』レビュー〉
「昭和天皇と今上天皇の『退位』」福田和也(文芸評論家)

私は昭和三十五(一九六〇)年生まれです。
日本は高度経済成長のまっただなか。東海道新幹線、東名高速道路の開通、東京オリンピックの開催などの大事業に経済は活発化し、年平均一〇パーセントという驚異的な成長を遂げていました。
https://www.bookbang.jp/review/article/522238

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〈『昭和天皇とスポーツ』/『随行記 天皇皇后両陛下にお供して』レビュー〉
「多岐にわたる公務の実態」レビュアー:奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

昭和天皇87年の生涯をまとめた『昭和天皇実録』の刊行が、昨年開始された。現在、全19冊中7冊が刊行されているが、売れ行きは好調で、各方面からの関心を呼んでいるようだ。
https://www.bookbang.jp/review/article/517842

■8月26日 アニメーション映画『君の名は。』公開

 新海誠監督による長編アニメーション映画『君の名は。』が公開され、大ヒットとなりました。12月25日現在興行収入は213億円を超え、日本映画の歴代興行収入ランキングで2位となっています。監督自身が執筆した小説版『小説 君の名は。』も145万部を突破しました。新海監督は映画を見て小説を読んで、そしてまた映画を見てほしいと述べており、実際映画館にはリピーターが数多く足を運んでいるそうです。Book Bangでは翻訳家・評論家の大森望さんが新海監督がオススメした本を紹介しています。

小説 君の名は。

〈『小説 君の名は。』レビュー〉
「『君の名は。』大ヒット 新海監督オススメ本は」レビュアー:大森望(翻訳家・評論家)

映画『君の名は。』の勢いが止まらない。公開からわずか28日で、なんと興収100億円を突破。新海誠監督がみずから書き下ろして先行発売した『小説君の名は。』も、刊行3カ月で100万部を超えた(小学6年生になる娘のクラスでも大人気だそうです)。
https://www.bookbang.jp/review/article/519107

■10月3日 ノーベル医学・生理学賞に大隅良典氏が決定

 今年のノーベル医学・生理学賞の受賞者が決定し、東京工業大学栄誉教授の大隅良典氏が選ばれました。大隅さんの研究「オートファジーの仕組みの解明」の成果が認められ受賞となりました。大隅さんがこれまでのインタビューで明かしていた自然科学を志すきっかけとなった3冊の書籍に注目が集まりました。

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「ノーベル賞・大隅教授が自然科学を志すきっかけとなった一冊が本の総合ランキングで1位に」
10月3日にノーベル医学・生理学賞の受賞が決定した、東京工業大学栄誉教授の大隅良典さん(71)。大隅さんが自然科学を志すきっかけとなった三冊の書籍に注目が集まっている。
https://www.bookbang.jp/article/518766

■10月7日 自殺した元電通女性社員の過労死が認定される

 元電通の女性社員が2015年12月25日に自殺した原因が長時間労働による過労によるものだったと三田労働基準監督署が認定していたことを遺族が明らかにしました。長時間労働を巡る世論は一気に盛り上がり国会でも議論となりました。批判を受け電通は社員の心得「鬼十則」を社員手帳から削除すると決めましたが、11月には厚生労働省による強制捜査が入り、12月にはブラック企業大賞2016にも選ばれてしまいました。電通は91年にも過労による自殺者を出しています。アイドルでライターの西田藍さんが自殺にまつわる一冊の書評の中でその事件について触れています。

自殺の歴史社会学

〈『自殺の歴史社会学』レビュー〉
「日本の社会で自殺はどう捉えられてきたのか」レビュアー:西田藍(アイドル/ライター)

近代以前の日本では、「自害」「捨身」「心中」「相対死」「切腹」「殉死」など、自殺は手段や様態に応じて、記録されてきたという。
本書で取り上げるのは、「厭世死」「生命保険に関わる死」「過労自殺」「いじめ自殺」という4つの事例だ。
https://www.bookbang.jp/review/article/522765

■11月8日 アメリカ大統領選挙 ドナルド・トランプ氏が勝利

 アメリカ大統領選挙が投開票され、共和党候補のドナルド・トランプ氏が民主党候補のヒラリー・クリントン氏を破り次期大統領となることが決まりました。多くのメディアがヒラリー氏の勝利を予想するなかでの番狂わせで「トランプショック」が世界中を駆け巡りました。日本の出版業界でもヒラリー勝利をあてこんだ「ヒラリー本」が多数出版されていましたが、一気に形勢は逆転しトランプ勝利を予見していたといわれるエマニュエル・トッド氏の著作や、民主主義の限界を唱える一冊に注目が集まりました。

問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論

〈『問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論』レビュー〉
「【見逃していませんか?この本】国民国家の再構築というシナリオはあり得るか」レビュアー:労働新聞社

イギリスのEU離脱はすでに今年最大のトピックといっていいほどの衝撃を呼んだ。
巷間でささやかれている懸念は、EUの崩壊へとつながる決壊となるのではないかというもので、これが引いては世界経済、日本経済に重大な悪影響を及ぼすというものだ。
https://www.bookbang.jp/review/article/519749

トランプショックがせまる 貿易戦争・核戦争の危機

〈『トランプショックがせまる 貿易戦争・核戦争の危機』レビュー〉
「日本に警鐘を鳴らす」レビュアー:産経新聞社

トランプ氏を大統領に選んだアメリカの現状を分析、「アメリカという太陽」が沈んだ後の世界に備えよと日本に警鐘を鳴らす。
https://www.bookbang.jp/review/article/522694

反・民主主義論

〈『反・民主主義論』レビュー〉
「乱痴気騒ぎのアメリカ大統領選…民主主義の宿命的な限界」 レビュアー:楠木建(一橋大学教授)

「デモクラシーは最悪の政治体制だ。過去に試みられてきたすべての政治体制を除けば」。プロレスの興行のようなアメリカの大統領選の乱痴気ぶり、チャーチルの箴言がいよいよ真実味をもって迫ってくる。
https://www.bookbang.jp/review/article/522767

 ***

 2016年は驚きに満ちた年となりました。安泰と思われていた人々が足元を掬われ、思わぬ人に注目が集まり、民意は予想もつかない方角へ転がり出しました。経済格差や個人に向けた機械的なレコメンド機能の発達で、人々が分断されていると感じる出来事も数多く見受けられました。真偽不明の情報で対立が煽られ、社会全体が不寛容な方向へ向かっていると警鐘を鳴らす人もいました。

 2016年、Book Bangは新聞・出版各社のご協力を頂き「信頼のおける」書評を多数掲載することができました。その数は1年間で参加社50社、レビュアー909名、書評4200本に上りました。2017年も多様で質の高い書評を集め、皆さまの本選びの一助となれるサイトにしていきます。来年もBook Bangをよろしくお願いいたします。

Book Bang編集部

Book Bang編集部
2016年12月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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