第5回日本翻訳大賞が発表 ポルトガル文学の“奇天烈”長篇小説と金融ブラックコメディに決定

文学賞・賞

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 第5回日本翻訳大賞が14日に発表され、ジョゼ・ルイス・ペイショットさんの『ガルヴェイアスの犬』(新潮社)とウィリアム・ギャディスさんの『JR』(国書刊行会)に決まった。

 受賞作『ガルヴェイアスの犬』は、巨大な物体が落ちてきたポルトガルの小さな村を舞台に、村人たちの間で巻き起こる様々な出来事を描いた物語。1984年1月の夜に巨大な物体が村に落下するところから物語が始まり、落下物は巨大な穴あけ、強烈な硫黄の臭いを放つ。この時点では壮大な展開が予想されるが、時が経つにつれて村人たちはそのことを忘れていき、村人同士の中で起こる色恋沙汰や痴話喧嘩、親兄弟の確執、思いがけない死と新たな命の誕生などが描かれる奇天烈な展開となっている。本作はポルトガル語圏のブッカー賞とも称されるオセアノス賞受賞作。訳者は『永遠の絆』(ジビア・ガスパレット)、『ブリーダ』(パウロ・コエーリョ)などの翻訳を手掛ける木下眞穂さん。

 著者のジョゼ・ルイス・ペイショットさんは、1974年、ポルトガル内陸部アレンテージョ地方、ガルヴェイアス生まれ。2000年に発表した初長篇『無のまなざし』でサラマーゴ賞を受賞、新世代の旗手として絶賛を受ける。スペインやイタリアの文学賞を受賞するなど、ヨーロッパを中心に世界的に高い評価を受け、『ガルヴェイアスの犬』でポルトガル語圏のブッカー賞とも称されるオセアノス賞(ブラジル)を受賞した。詩人としても評価が高く、紀行作家としても活躍。作品はこれまで20以上の言語に翻訳されている。現代ポルトガル文学を代表する作家の一人。

 もう一つの受賞作『JR』は、11歳の少年JR・ヴァンサントが、1株だけ買ったケーブル会社への投資をきっかけに企業経営に乗り出し、巨大コングロマリットを立ち上げて株式市場に参入し、世界経済に大波乱を巻き起こす金融ブラックコメディ。1976年に第27回全米図書賞を受賞している。訳者は『逆光』(トマス・ピンチョン)、『オルフェオ』(リチャード・バワーズ)などの翻訳を手掛ける木原善彦さん。

 著者のウィリアム・ギャディスさんは、1922年、ニューヨーク生まれ。ハーバード大学を中退後、「ニューヨーカー」誌の校正者などを経て、偽造をテーマとした小説『認識』で作家デビュー。出版当時はジェイムズ・ジョイスを継ぐ作家と評され、作品の長さと難解さのために、カルト作家として一部に知られるのみだったが、第二作『JR』で全米図書賞を受賞し、実力が広く認められる。その後、1994年に発表した『自己責任の遊び』で二度目の全米図書賞を受賞。1998年死去。遺作を含め、5作と寡作ながらジョン・バース、トマス・ピンチョンと並ぶポストモダン文学の巨匠とされる。

 日本翻訳大賞は、日本翻訳大賞実行委員会が主催する文学賞。12月1日~翌年12月末までの13ヶ月間に発表された作品を対象に小説、詩、エッセイ、評論など優れた日本語翻訳作品に与えられる。第5回の選考委員は、日本の翻訳文学を牽引する翻訳家である金原瑞人さん、岸本佐知子さん、柴田元幸さん、松永美穂さん、西崎憲さんの5氏が務めた。

 昨年は、キム・ヨンハさんの『殺人者の記憶法』(CUON)とボレスワフ・プルスさんの『人形』(未知谷)が受賞。過去にはパトリク・オウジェドニークさんの『エウロペアナ:二〇世紀史概説』(第1回)、パトリック・シャモワゾーさんの『素晴らしきソリボ』(第2回)、アンソニー・ドーアさんの『すべての見えない光』(第3回)などが受賞している。

 第5回の候補作は以下のとおり。

『奥のほそ道』リチャード・フラナガン[著]渡辺佐智江[訳]白水社
『ガルヴェイアスの犬』ジョゼ・ルイス・ペイショット[著]木下眞穂[訳]新潮社
『JR』ウィリアム・ギャディス[著]木原善彦[訳]国書刊行会
『自転車泥棒』呉明益[著]天野健太郎[訳]文藝春秋
『すべての、白いものたちの』ハン・ガン[著]斎藤真理子[訳]河出書房新社

Book Bang編集部
2019年4月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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