人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ ミチオ・カク著

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人類、宇宙に住む 実現への3つのステップ ミチオ・カク著

[レビュアー] 石浦章一(同志社大特別客員教授)

◆地球外へ 最新技術で見る未来

 「厳しい環境に直面した生物が行きつく運命は、その環境から出ていくか、環境に適応するか、滅びるかだ」。こんな印象的な言葉で始まる本書は、現実的な宇宙旅行についての最新技術を紹介するものである。内容は宇宙飛行、火星移住をはじめ人工知能から生命科学に至るまで多岐にわたっており、米国で日本の池上彰(あきら)氏的な立ち位置にある著者の力量が十分に発揮されている。

 オバマ前米大統領がいったん停止させた宇宙開発がまた世界的ブームになっているのは、GAFA(ガーファ)(主要IT四社)をはじめとする若手起業家たちが個人の資金をつぎ込んでいることが大きな力になっている。目的は宇宙旅行だけでなく、月や小惑星からのレアアース(希土類)の採取など現実的なものもあるので、ロケット等の開発スピードがアップしているわけだ。

 このあたりを導入に、何といっても本書の核は知的生命体探しである。知的生命体が水生だったらなどという思考実験、物質的実体を捨てて私という情報をレーザーに乗せて宇宙に送り出すレーザーポーティングなどは物理学者である著者の面目躍如たるところがある。最後に提示してある宇宙の最終的運命はどうなるのか、宇宙が死にかけたら破滅は回避できるのか、などの問いの答えは、ここに書くわけにはいかないから、本書を見ていただくのが一番だ。

 私の専門の生命科学分野では、不死を求める冷凍冬眠などのSF話よりも、少しでも現実味のある老化を遅らせる話や記憶を再現させる話が興味深かった。

 最後に一番の興味は、宇宙旅行に行きたいと考えている人間がそんなに多いのかという点だ。本書に出てくるスペースX社の創業者イーロン・マスク氏ら数人も、月程度の旅行で資金を回収したいと思っているのではないか、という危惧だ。遠い将来、地球滅亡の際に、移住先を求めて出発するオデッセイ号、一生ロケットの中で何世代も過ごさなければならない人間たち…。皆さん、この中に入りたいと思うだろうか?

(斉藤隆央(たかお)訳、NHK出版・2700円)

ニューヨーク市立大教授。著書『パラレルワールド』など。テレビ、ラジオの科学番組に出演。

◆もう1冊

ティム・ピーク著『宇宙飛行士に聞いてみた!-世界一リアルな宇宙の暮らしQ&A』(日本文芸社)

中日新聞 東京新聞
2019年6月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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