天皇皇后両陛下が受けた特別講義 講書始(こうしょはじめ)のご進講

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天皇皇后両陛下が受けた特別講義 講書始のご進講

『天皇皇后両陛下が受けた特別講義 講書始のご進講』

出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784046047526
発売日
2020/05/28
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

天皇皇后両陛下が受けた特別講義 講書始(こうしょはじめ)のご進講

[レビュアー] 石浦章一(同志社大特別客員教授)

◆1人15分 凝縮された学識

 諸芸能事 第一御学問也−。鎌倉時代に順徳天皇が記した「禁秘抄(きんぴしょう)」にあるように、学問は天皇の重要な仕事であった。現代の講書始とは、当時の天皇が受けていた「貞観政要(じょうがんせいよう)」などの講義か、はたまた「伊勢物語」「古今伝授(こきんでんじゅ)」のような文化的な素養の涵養(かんよう)か、秘曲「啄木」のような管弦の一対一伝承なのかに興味があった。しかし、講書始の儀の写真を見ると、大部屋に皇族方など五十人ほどが参列した単なるセレモニーになっているようで残念だ。

 一人約十五分、三人によるご進講では天皇陛下もご不満であろう。題材の選び方にしても、人文・社会・自然から一人ずつでは、本当に重要な内容が含まれているかどうか。天皇皇后に講義するなら、せめて昔のようにじっくりと深い内容まで含むものにならないと、聞いているほうも楽しくないのではないか。

 では内容も薄いのかというと、決してそうではない。例えば遣唐使。阿倍仲麻呂などは数人で渡航したのかと思っていたが、船数隻、数百人単位のことだと知って驚いた。太陽のエネルギーの二十二億分の一しか地球には届いておらず、光合成を介してその十万分の一しか人類が利用していないという現状であれば、その有効活用が如何(いか)に大事かということも理解できる。中世修道院での筆写などによって古代の歴史や典籍が現代にも伝わった話、北原白秋の一首の短歌がどれほどの余情をもたらすのかなど、興味深い話が満載である。

 しかし、天皇陛下に知っていただきたいことは、このような断片的知識とは違うのではないかという感を強く持った。何よりも題材選択に筋が通っていない。学問を好まれる天皇陛下への講義は「歴史を書き続ける」重要性をテーマにすべきではないか。

 他方、傍観者である読者の皆さんや私たちにとって、本書の見どころは、碩学(せきがく)が十五分でどう仕事をまとめているかであろう。知らない分野を学ぶ良い機会となるだろうし、世間の耳目をそば立たせる研究の本当の重要性を知る題材としては最適である。

(KADOKAWA・1650円)

2011〜2020年の30講義を収録。ノーベル賞を受賞した本庶佑(ほんじょたすく)らが登場。

◆もう1冊 

皇室事典編集委員会監修『知っておきたい日本の皇室』(角川ソフィア文庫)

中日新聞 東京新聞
2020年7月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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