『格差は心を壊す 比較という呪縛』
- 著者
- リチャード ウィルキンソン [著]/ケイト ピケット [著]/川島 睦保 [訳]
- 出版社
- 東洋経済新報社
- ジャンル
- 社会科学/経済・財政・統計
- ISBN
- 9784492315262
- 発売日
- 2020/04/03
- 価格
- 3,080円(税込)
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格差は心を壊す 比較という呪縛 リチャード・ウィルキンソン&ケイト・ピケット著
[レビュアー] 中村達也(経済学者)
◆所得差が生む闇 データで明示
所得格差が、歴史的にどう推移してきたのかを、世界的規模で分析し、大ベストセラーとなったT・ピケティの『21世紀の資本』が出版されたのが、二〇一三年のことだった(邦訳は二〇一四年)。戦後になって縮小傾向を示してきた所得格差が、一九七〇年代末から再び拡大に転じたことを、詳細なデータによって明らかにして注目を集めた。ただし分析は、所得格差などあくまでも経済分野に限定されていた。
一方、本書が焦点を当てているのは、所得格差が人間の心と行動にどう関わっているのかという問題である。著者のウィルキンソンは経済学者にして公衆衛生学者、ピケットは疫学者である。例えば、こんな関係が明らかにされる。所得格差の大きい国ほど、うつ病や統合失調症患者数の人口当たりの割合が高く、ギャンブル依存症者の割合も高い。そして、市民の社会活動への参加率が低い。
さらに、所得格差の大きい国ほど、自分の社会的立ち位置への不安が強く、自己顕示的な消費が広がりを見せている。消費を促す広告費の対GDP比が大きいというのも、なるほどとうなずける。邦訳サブタイトル「比較という呪縛」がそのことを象徴している。そして、地球環境保護協定の順守状況が悪いのも、所得格差の大きな国の特徴だという。
ところで、所得格差の大きいことを象徴的に表現するものとして著者達(たち)が注目しているのが、一部の経営者の破格の高報酬である。アメリカの大企業三百五十社のCEO(最高経営責任者)と工場労働者の報酬格差が、一九七〇年代には二〇~三〇対一であったのに対して、二十一世紀に入ってからは二〇〇~四〇〇対一へと拡大しているという。これには合理的な根拠は見いだせないとして、著者達が提案するのが、従業員や消費者やコミュニティ代表の経営参加である。経済の民主化が持続可能な社会と地球に通じるというのである。格差がさまざまな問題とどう相関しているのかを示す三十八の図表も、大いに味読に値する。
(川島睦保(むつほ)訳、東洋経済新報社・3080円)
<ウィルキンソン> ノッティンガム大名誉教授。共著『平等社会』。
<ピケット> ヨーク大教授。
◆もう1冊
トマ・ピケティ著『21世紀の資本』(みすず書房)。山形浩生(ひろお)他訳。