【話題の本】『戦国大名の経済学』川戸貴史著 戦争1回の準備に1億円

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 戦争に明け暮れていたように見える戦国大名。ただ、今も昔も金がなくては戦はできない。彼らはどんな収支で行動し、同時代の日本経済はどう動いていたのかを、気鋭の貨幣経済史研究者が読み解いていく。

 米を基準に現代の貨幣価値に換算すると、刀は兵卒が持つ普及品で1本3万~4万円。槍(やり)はそれより少し高い。具足は廉価品で30万円程度。新兵器の鉄砲はおおよそ1挺50万~60万円。徒歩兵士1人の装備は、60万~70万円ほどとなる。大名の重臣クラスで1回の戦争準備に1億円程度を見込んでおり、もし敗戦して領地拡大=収入増に失敗すれば、たちまち財政危機が目前に迫ってくるシビアな時代だった。

 こうしたミクロな収支を検討する一方で、戦国時代が前近代で最も世界経済と結びついた時代であることも活写される。中国に起因する銭不足が国内貨幣統制の深刻な混乱を招き、税制にも波及して近世の石高制につながったとする大きな流れの叙述は鮮やかだ。

 6月下旬に初版8000部でスタートし、すぐ増刷がかかって現在2刷1万部と好調。従来あまりなかった角度から、戦国時代像をとらえ直した意欲作だ。(講談社現代新書・1000円+税)

 磨井慎吾

産経新聞
2020年7月18日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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