『或るギリシア棺の謎』
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棺(ひつぎ)は主役になったか 柄刀一
[レビュアー] 柄刀一
南美希風(みなみみきかぜ)という探偵役で書かせてもらっている〈国名シリーズ〉の第二弾で、シリーズ中恐らく唯一の長編になるのではないでしょうか。大作です。
第一弾の短編集を未読でも問題なく読み始められます。
それにしても、ミステリーは、一番の読みどころをお伝えできないのがもどかしいですね。全体構造ではなく、大団円では現実世界の犯罪シーンでもよくある常識的な光景に衝撃を与える、とだけ言っておきます。
本格ミステリーのジャンルでは昨今、“特殊設定”が組み込まれた、あるいはそれと一体化したストーリーが目を引くようになっています。主役たちが超現実的な能力を有していたり、ゾンビが登場したり、天使や呪いが存在したり。並行世界も想起させるSF的な仮構とも言えますから、これらの話からは未来的な印象も受けます。しかし『或(あ)るギリシア棺(ひつぎ)の謎』は、現実感を保ったままで過去への方向性を持つ“特殊設定”と、あえて言えないこともありません。なにが特殊かというと、カナ文字タイプライターです。
この種のタイプは、日本では一般的ではないでしょう。少なくとも私のイメージでは、広く活用されたのは過去の一時期で、扱える人も特殊です。それが本作では、連続殺人を示唆する声明文に使われたりと、重要な役割を果たします。その品ならではの手掛かりがあり、時には妖しい効果も放つ。本邦ではあまりお目にかかったことのないタイプライター長編ミステリーになっていると思います。
しかしそこに主役の座を渡さず、棺も謎の中心にあって人々の運命を掻(か)き回しているかどうか。なぜ、殺意の対象になるとも思えない者たちが殺されるのか? なぜ、容疑者は限られているのに犯人を絞り込めないのか? さて、物言わぬ遺体に代わり、棺は答えを語ることができたのか。